敬虔な日本国民の一人として、僕は学生の頃からNHKにお金を納め、より良い番組制作を全力でバックアップする姿勢を取っている。頑ななまで企業名や商品名を紹介しないNHKの「国民みんなの放送局だよ!宣伝しないよ!だからお金納めてね☆」って集金方法に応じて久しい。
さて、たかだか月に数千円の視聴料を払っている程度で何を語れる訳ではないが、どうしても書きたいことがあった。書く。
「おはよう日本」
www.nhk.or.jp
NHKが誇る朝の情報番組。
早朝4時半から朝ドラまでの時間を大小緩急織り交ぜて様々なニュースを紹介してくれる。なんとなく真面目放送局の印象が拭きれないNHKだが、朝ドラ後の情報番組「あさイチ」と合わせて、フランクな一面を朝に持ってきている。
朝の番組に重要な要素として、時報がある。
とにかく忙しい朝の時間、テレビをつけっぱなしにして支度をする僕たちに黙っていても時刻を知らせる機能。
おはよう日本の時報は、スゴい。
www.youtube.com
Youtubeより拝借。
ざっと聴いていただければお分りいただけるかと思う。時報とジングルの融合である。時ングルとでも言おうか。上手いこと言った。
例えば、朝の番組の横綱的存在、フジテレビ系の「めざましテレビ」では、マスコットキャラクターの「めざまし君」が「6時ぃ!6時ぃぃ!」って怒号を飛ばしてくださる。そこには音階もなければ、リズムもない。ただのケツ叩きである。
しかし、国民みんなの放送局は一味違う。歌う。
僕は7時の時報を聞いて衝撃を受けた。動画だと最後に収録されている。
「しちじしちじしっちじ〜〜♪」
最初、何かの聞き間違いかと思った。今、めっちゃ7時って言ってた気がする…って翌朝落ち着いて聴いてみると、やっぱりめっちゃ7時って言ってた。試しに検索してみたところ、ほぼ全ての時刻において時刻を連呼している。美声が爽やかなメロディに乗って。
曲の仕組みは簡単で、「おはよう日本」のジングルのメロディに時刻を当てはめているだけだ。しっかしこの時報、拝聴した後のザラザラ感が拭えない。濃いカルピスを飲んだ後の喉のゼロゼロ感のような、いいとも悪いともつかない独特の違和感を残す。
おはよう日本の時報がなぜ、僕をザラザラさせるのか。
違和感の出所を探る。
大前提として、情報番組は読んで字のごとく情報を伝えるために存在する。番組ごとの差異を単純化してしまえば、
「情報(伝えたいこと)」を「どう伝えるか(伝え方)」
でしかない。
そんな中、各局様々な番組を放送している。局の差はあれ、同じ日の同じ朝を伝える情報番組たちである。仕入れてくるニュースは大抵横一線だ。
だからこそ、「どう伝えるか(伝え方)」に各局知恵を絞る。
まだエンタメ系のニュースであれば、番組ごとに編集の余地が残されているが、政治の話や宮家の話、経済の話になると、情報の純度がだんだん高まってきて、捻りようがなくなってくる。
中でも、最も純度が高い情報の一つが、時刻。
そもそも、時報とはなぜ流すのだろう。
考えるまでも無く、時刻を知らせたいからだ。それ以上でも以下でもない。時刻に付随する感情は全てかなぐり捨て、淡々と時刻を知らせたいがための時報である。政治も比較的純度が高い情報だとしたが、仮に豊洲移転問題を考える時、コメンテーターたちがヤンヤヤンヤと口を出す隙がある。
一方、時刻を考えてみてほしい。「7時です」の声にチャチャを入れるコメンテーターがあろうか。まずいない。褒められもできなければ文句もつけられない、剥き出しの高純度情報である。
だからこそ時刻の伝え方は難しい。アレンジのしようがない。
工夫の余地が非常に少ない中、NHKの技が光っている。
ここで改めて、『情報(伝えたいこと)をどう伝えるか(伝え方)』という構造を用いて、各局どのように時刻を伝えているのかを考えてみたい。
おはよう日本
『時刻(伝えたいこと)をジングルで流す(伝え方)』
めざましテレビ
『時刻(伝えたいこと)をめざまし君が叫ぶ(伝え方)』
ZIP
『時刻(伝えたいこと)をメインパーソナリティ等が言う(伝え方)』
あさチャン
『時刻(伝えたいこと)をぐでたまが言う(伝え方)』
グッド!モーニング!
(未確認ですが、どうやらZIPと同じようにパーソナリティが伝えているようである。Google調べ)
上記の通り、NHKのおはよう日本のみ*1が、果敢に時刻を音楽に乗せて伝えている。事実として動かしようのない高純度の情報をあえてジングルに乗っける試み。
COWCOWのあたりまえ体操を思い出して欲しい。
右足を出して 左足出すと 歩けるっ!
うん、そうだよね、歩けるよね。
「あたりまえ」。
人々の脳裏に刷り込まれまくり、今更どうこう言う余地の少ない高純度の情報を、大げさにかつメロディに合わせて動くことに面白さを見出した例である。そこまでしなくてもわかってるのに…と言う心情を呼び起こさせる。
NHKも似たようなことをおはよう日本の時報でやったわけだ。「あたりまえ」を「時刻」に変えて、COWCOWがネタとして仕込むようなことを朝の情報番組にぶち込んだのだ。これを挑戦と言わずにどうするか。
重ね重ね、良くも悪くも画一的になってしまいがちな情報番組。慣習的な部分で朝の番組を決めている国民が多い中で、4月に大きな番組改編があったNHKが仕掛けた攻めの一つが、あのジングルだろう。
誰もやらないことをやる。特殊な民間企業として保守的になっても不思議じゃないのに、時報という隙間に注目してこれほどまでにザラつかせる気概と技術に舌を巻く。
で、結局ザラつかせてどうなんのよって話だが、炎上商法とかっていうザラつきどころじゃないマーケティングが蔓延る昨今である。ある種ザラつかせたもん勝ちだ。炎上だと印象が酷く悪くなってしまうが、多少のザラつきであれば話題を呼ぶ。一度捕まえたらそこからは自力勝負である。天下のNHKが国民をスポンサーとした潤沢な資金で作り出すハイクオリティな番組群が口を開けて待っている。そこに飛び込むか否かは僕ら次第。
少なくとも僕は、「しちじしちじししっちじ〜〜♪」を聴いてからというもの、時間の許す限りNHKに張り付いている。分りやすくNHKの術中にハマってしまった。
別にどうってことはないのだが、ザラッと感が心地よくなりだしたから書いた。別に見てとは言わない。