読んだ。
近所の図書館が改装閉館されるってことで、リユース資料として大量の本をタダで配布していた。
そんなタダで本いただけるっていうならね、もらうよ。そりゃ。
来館時と比べると数倍の重量になったカバンを抱えて帰ってきた。それが数か月前。
やっぱり本は買わないと、読もうっていう使命感というかやる気がブーストされない節がある。どうせタダだったし。どうせ返却期限とかないし、いつでも読めるし。
怠惰な感情に流された結果、読みださずにいたのですが。ついに読みました。
どんな作家
巻末の作家紹介より
海堂尊(かいどうたける)
1961年千葉県生まれ2005年『チーム・バチスタの栄光』で第4回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞。
現役勤務医としての知識と経験による圧倒的リアリティと登場人物たちの強烈なキャラクターが多くのファンに愛されている。
だ、そうです。
理系と文系のプリウス。ペンとメスのハイブリット。古館伊知郎が比喩りそうな安っぽい喩で言えばそういうことだ。バチスタは見た人多いのではないかな。阿部寛だっけ。
背景からして海堂さんの小説は医療小説が多いらしい。むしろほぼ医療小説だそうで。
さて今回のジーンワルツ。
どんな本
帝華大学(おそらく東大的な設定)に勤務医兼講師として勤める、産婦人科医の曾根崎理恵が主人公。彼女を中心としてお話が展開されていく。
主な内容としては
- 産婦人科ないしは出産するということを取り巻く現状(出版が2008年だから当時の)
- お産についての平たい知識
- 曾根崎理恵を取り巻く人間ドラマ
に分けられる。
分けられるというか、曾根崎理恵を取り巻く人間ドラマをなぞりながら、産婦人科の現状とお産についての知識を得て行って、最後ドラマで落とすといった形。
どのようにどこまで書いていいやら。
曾根崎は帝華大学に勤めてはいるんだけれども、副業としてマリアクリニックという産婦人科の病院にも勤めている。国立大学の勤務医ってあまりもうからないらしい。
で、このマリアクリニック。かつてはカルテがオベリスクを形成するほどの産婦人科だったのだけれど、現在の患者は五人。
あらあら何があったのと。
ここから学ぶ産婦人科の現状と現代医療の現状。
マリアクリニックがここまで閑散とした原因
- マリアクリニックの院長、三枝まりあ(漢字あるけど割愛)の息子・久広の医療ミス
- そもそもの医療崩壊
まりあ院長の息子久広さんは北海道の極北町という何ともそれらしい街で地方産婦人科医療を支える医者だった。20年以上支えてくれているというから道産子として頭が上がらない。
しかし久広さん、たまたま遭遇した癒着胎盤という奇跡的に珍しい疾患と帝王切開中に遭遇して、対応しきれずに母子ともに死亡させてしまう。
話の分かる医者サイドからすればそれは仕方ないよ…レベルの疾患と医療ミスだった。だが久広さんは業務上過失致死で逮捕拘留、さらに事件を暴いた警察側は表彰される。散々だ。
この逮捕には医局と官僚の仲が悪いとされ続けてきたことから、霞が関の陰謀が見え隠れしているとして、医療界からの大ブーイングが浴びせられる。けれど逮捕失脚した医者の母親がいる病院というレッテルを世の中から貼られたマリアクリニックはやはり苦しくなる。
これが一つ目の要因。
そしてもう一つが地方医療の崩壊。
その原因として新医師臨床研修制度が挙げられるって書いてある。
新医師臨床研修制度
従来の臨床研修は、卒業生が任意で出身大学の医局に進み、単一専門科を選んで受けるのが慣習だった。だが、「専門診療科に偏る」「地域医療との接点が少ない」「研修医の待遇が悪い」という批判を受け、2004年に医師法を改正して新制度が導入された。出身大学以外でも臨床研修病院の指定を受けた病院で研修を受けられるようになった。さらに専門外の診療科にも目配せできる医師を育てるため、地域医療、内科、救急を必修にした。
コトバンクより。
つまり大学に残る医者の数が減ったということらしい。
するとどうなるかというと、大学から地方に派遣している医者を大学に呼び戻さねば大学病院が回らなくなる。呼び戻す。地方医療に携わる人が減る。残された人に皺がよる。苦しくなる。どんどんやめて行く。
負のスパイラルもいいところだ。これが地方医療の崩壊として書かれている。そもそもの崩壊プラス久広さんの逮捕で地方医療が完全にぶっ壊されてしまったと。
お産についての平たい知識
これはマリアクリニック最後の患者である5人の妊婦のケースと、曾根崎が大学で教鞭をとっている発生学の講義から学べる。
我々男性諸君において出産ってのはまず関わることのないことだけれども、変なバイアスがかかってはならんから勉強しておくべきだなぁと感じた。
とにかく、普通に生まれてくる子供が少ない。とにかく少ない。
現代医療でも1000人に4人は死産であり、障害を抱えて生まれてくる子供はもっともっと多い。そこそこ医療が発達して、あったりまえに赤ちゃんは生まれてくるものだと思ってしまう節があるけど、そんな甘くないんだなと、改めて感じた。
お母さんの努力もそうなんだけど、生まれるためには子供のテクニックがめちゃくちゃ大切らしい。回転する方向、顔の位置、首の回し方。すべてがかみ合わないことには自然分娩は成立しないんだとか。世の赤子の本能というか、勘に感服です。
マリアクリニックにおけるラストマタニティの5人のうちでも、本当にいろいろな問題が起こる。まぁこのあたりはひどいネタバレになるからやめておく。変な気遣い。
そして最後に人間ドラマ
曾根崎理恵を中心に、大学側だとその上司清川、産婦人科の教授の屋敷。
マリアクリニック側だと助産師の妙高と院長の三枝まりあ、そして5人の妊婦。
彼ら彼女らを取り巻いて話は進んでいく。
医療の現状やお産の知識などは結局のところこの人間ドラマの副産物でしかない。
人間ドラマのメインとなるテーマが代理出産である。
ある女性が別の女性に子供を引き渡す目的で妊娠・出産すること
小説内では托卵と重ね合わせている。
ホトトギス。歴代天下人たちにいいようにもてあそばれた故に望外の知名度を得た鳥だが、ホトトギスはウグイスをもてあそぶ。
ホトトギスはウグイスの巣に卵を産む。全然雛の形も違うのにウグイスは気づかずに餌をやり続ける。ウグイスの本当の子供を巣から押し出してまでもホトトギスの子は成長し続ける。ウグイスの親はそれでも育て続け、巣を離れるまで自分の子として育てる。
ホトトギスのゲス具合が目につくが、それもテクニックである、仕方ない。
そしてテクニックとか言っていられないほどに、今の妊娠出産は托卵に近い状態になっている。
そもそもが父親が子供のほんとうの親かというところに関しては確実にそうだとはいつの時代も言えない。この間光GENJIの大沢樹生がひと悶着起こしたように、本当にあいまいなことだ。
元・光GENJI・大沢樹生、実子騒動の真相を語る - モデルプレス
さらに医療の発達により可能になった代理出産によってほんとうの母親すらも怪しくなってくる。生んだ母親が母親か、卵子提供者が母親か。
代理出産自体、日本国内では認められていない。
母体の安全や倫理的問題が解決されていないということが一つ、そして現在の法制度が整ったのが明治時代。明治時代の法制度で現代医療を裁くことがっできないというキャパシティ的な問題が一つ。
この代理出産が物語に絡んで、人間ドラマはぐるぐるぐるぐるとまわっていく。
どうやって絡んでくるかはできればご自身の目で。
代理出産については今度いろいろまとめなおそうかな。
たまには頭使おうかなと思います。
全体として
とってもわかりやすく医療の問題点と基本的な知識を得られた気になる本でした。少なくとも代理出産ついて考えてみようと思わせてくれるだけの本であることは確かです。もちろんエンターテイメントとしてもちゃんと楽しめます。
大した読書家ではないですが、十分楽しめた作品でした。
ぐっじょぶ図書館。
映画化もされてた。