テクテク歩く。
なんとなく散歩に出かけた感じの歩き方だ。のーんびり、ゆーっくり、せせらぎやそよ風と共にテクテク。なんとも地井武男を髣髴とさせる。予定なんかない。歩くことが予定だ。
スタスタ歩く。
時間かなんかに追われている。目的があって、そこにめがけて歩いている感じがする。スタスタ。足の回転がテクテクからは二倍くらいには上がった感じがする。予定があることは間違いない。
擬音語。オノマトペ。
動作や状態のニュアンスを表してくれるのには便利極まりない言葉だ。これがないことには、どの程度の動作なのか全くわからない。というか説明するのがだるい。とんでもなく長い文章になるところを、擬音語がさくさくっと伝えてくれている。
最近のホットトピックが痛みだ。相も変わらず体は断末魔の悲鳴をあげている。
本日は、この痛みについての擬音語を考えてみたいと思う。
擬音語の定義として、動詞に直接結びつく(ガツガツと食べるのような、『〜と動詞』の組み合わせは認める)、単体では意味をなさない音で感覚的に動詞の程度を表す言葉としたい。
ズキズキ、チクチク、シクシク、キリキリ
割とメジャーな痛みたちだ。胃痛、歯痛にはこれらがとても有用なオノマトペになる。医者たちも大分重宝している気がする。
ガンガン、グワングワン
こうなると頭痛だ。弱脳震盪になった雪山斜面ではお世話になったこの感覚。首を振ろうものならガンガングワングワンが酷く痛みを訴えてくる。
ギシギシ
筋肉痛とかに多い。
動かせるけど痛い、動かしにくい痛みにはギシギシ。肉体も機械のような一面を見せるんだなと思わせてくれる。現状、最も近い痛みがこれだ。
ジンジン
染みる系の痛み。やけどとか、あかぎれとかに水がかかった時はこの痛みだ。酷いけがの後、患部に何かが触れた時もジンジン出来る。
キーン、ツーン
しみる系のもう一派。
主戦場は歯だ。歯覚過敏の痛みがこれに当たるんだろう。あと、かき氷頭痛もこれ。重症化しないことが多いのかもしれない。
ドクドク
大けがの時に多いかなと思う。私事だと、転んだ拍子にメガネの鼻あてが目のちょっと横にサクッと刺さった時にこの感覚を味わった。心臓の鼓動と合わせて痛む。熱い。
思いつく限り挙げてみた。
しかしだ。痛みのオノマトペには致命的な欠陥がある。そう思う。
欠陥とは何か。
瞬間的、爆発的な痛みを表現するオノマトペがないのだ。
どういうことか。
卑近な例で言うと、箪笥の角や家具の角に足の小指をぶつけたとしよう。強く。比較的強く。その瞬間、人は確実に痛みを感じる。強くぶつけたんだからまぁ大体がうずくまるわな。
さぁ、どう痛い。
多分、最初はズキズキじゃないはずだ。最終着地点はズキズキだったとしても、ズキズキに至るまでには、大けがであれば大けがであるほど時間を要する。
じゃあ箪笥にゴンした瞬間、交通事故の瞬間、それこそスノボで大転倒をかました瞬間。どんな痛みが襲っているんだ。擬音はどうなんだ。
こうなったらもう作るしかない。
定義をおさらいする。
動詞に直接結びつく(ガツガツと食べるのような、『〜と動詞』の組み合わせは認める)、単体では意味をなさない音で感覚的に動詞の程度を表す言葉
だから、「○○○○痛い」または「○○○○と痛い」このフォーマットにあてはめなければいけない。
考えてたって出てこないものは出てこない。実際に痛みを経験するのが早い。爆発的な痛みだったらなんでもいいのなら。
ちょっと毛を抜いてみる。
うわ!ってなった後に、ジーンってなる。
ちょっとほっぺひっぱたいてみる。
は!ってなった後に、ジーンってなる。
困ったことに肝心要のうわ!は!のところの痛みが筆舌に尽くせない。書きようがない。びっくりの要素の方が大きすぎてどうしようもない。
何回か顔ひっぱたいてみたけど、今、一つの真理に行きついた気がした。
痛みは、瞬間では痛みじゃないのだ。びっくりだ。痛みはびっくり。
びっくりした後から痛みがやってくる。
丁度そうだ、花火の光と音の関係に近い。
光がびっくり、音が痛み、そして花火会場との距離が痛みの強さだ。
花火だと、
花火会場との距離が遠ければ遠いほど光と音がずれてやってくる。パッと開いてからしばらくして音がドドーンとなる。
痛みにあてはめてみると
痛みの強さが強ければ強いほどびっくりと痛みがずれてやってくる。うわっとびっくりしてからしばらくして痛みがズキーンとなる。
これだろう。これだ。
瞬間的な痛みのオノマトペが存在しない理由。それは瞬間的な痛みが存在しないためだと言える。
事故も、箪笥も、スノボも、最初は痛みじゃない。びっくりな衝撃だ。それを痛みがじわじわと塗り替えていく。そうして人間はいたいと感じるんだ。
でももし瞬間的痛みのオノマトペがあるようだったら教えてください。
知りたい。知りたいです。