徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

MENU

大冒険からの帰還 ~アクティブ迷子~

プチ迷子が好きだ。右も左もわからないガチンコの迷子だと不安で不安で仕方なくなるのだが、右は分かるけど左は分からないくらいの道であれば、率先して左に向かいたくなってしまう。

なんというか、知らない場所に対する興味とか関心が強いらしい。地図とか大好き。しばらく見てられる。

小学生のころから、なんとなーく自転車で遠くまで行くのが好きだった。とりあえず西に行くか東に行くかを決めて、極力知らない道を辿って突き進んでいく。小学生のころに勝手に設定していた町の果てまで行って、帰りもまた違う道を辿って帰る。自動的に遊び相手が少なくなる一人っ子の至上の楽しみだった。

 

三つ子の魂は二十歳過ぎまで確実に続いていて、今も絶賛知らない道・街ホリックである。一人暮らし始めたころに、自転車でめちゃくちゃにそこらを走り回った。この道がここに繋がっているのかと、机上の地図じゃ実感として得られないマイ地図を頭の中に作った。ただ、実家との大きな違いは、家に帰れど一人だということだった。ベースキャンプが寂しい。夢見心地で不安とわくわくの瀬戸際をふらふらしても、帰ってきたら寂しいのだ。どんな道があってどうだったかを話す相手もいない。安息の地が確保されないと、冒険に気が向かないらしい。

そのうちになかなか迷子に飛び込まなくなってきた。

東京での生活に慣れたら慣れたで、探検とは違う楽しみを知る。学校や部活の忙しさも相まって、やっぱり結局はふらふらすることは少なくなった。

 

色々なことから解放されてきた最近。バイトもあと一回の勤務で区切りだ。またむくむくとプチ迷子になりたい気持ちが芽生えてきた。何かと運動不足でもあるしな、ちょっと走ろうかな。

ご丁寧に大快晴の空。これはお天道様が走れと言っているな。誘いの乗ってやろうじゃないか。本当に久しぶりに運動できる服装にドレスチェンジし、ランニングシューズを履いて外に飛び出した。勢いしかない。

日差しのおかげでなかなかに暖かい。久しぶりの運動で、血流グルングルンの気分ウキンウキンだ。どこまででもいける。行けるよ!

機嫌が良くなればよくなるほど、迷子への欲求が高まる。ここ数週間でトップを争うハイテンションに浮かされ、どんどん知らない道へと突き進む。曲がり角ごとに曲がりまくる。不安が高まるほどにテンションが上がる、セルフマゾヒスティックの境地に達していた。

こんなわけわからん路地も、誰かにとっては故郷なのか。そうか、どの場所も捨てがたいプレシャスなプレイスなんだな。プレプレ。

ハイテンション特有のセンチメンタルに浸りだしたころ、自分の呼吸が気になり始める。変なテンション同士うまいこと打ち消し合って、感情がニュートラルに入ろうとしていたそのとき、気付く。

ここどこやねん。

本気で分からない。どっちに行けば知っている通りに出るのかもわからない。来た道を辿るのはプライドが許さない。つーかきっと戻りたくても戻れない。めちゃくちゃに曲がりすぎた。

不安が焦りに変わる。途端に疲れてくる。足を止めたい。いや、ここで足を止めたら再び走り出すのにどれだけのエネルギーを使うかしれない。走り続けなければ。そして考えろ。考えろ…

なんとなく知っている道に出そうな雰囲気を追いかけるも、幻影でしかない。蜃気楼の中に突っ込んでいる気分で走る。半べそだ。二十歳過ぎてこんなに切なくなることってあるか。出先で自転車盗まれたときもここまでじゃなかったぞ。

ふと、川に突き当たる。

どの程度上流なのか下流なのかもわからない川。名ももちろん知らない。とりあえず、上流に行けば何かがある気がした。水の来る方向へ走る。

足はもう棒で、心は粉末だった。上流を目指した時一瞬芽生えたサバイバルな気持ちも、彼方へと飛んで行った。もうこれ帰れないんじゃないか。いいや、次のコンビニ見えたら道聞いちゃおう。プライドとか言ってられん。疲れたです。

今考えたら、川沿いにコンビニなぞない。そこまで頭が回らないほどに追い込まれていたらしい。

あるはずのないコンビニの代わりに、恵みの線路が顔を出す。電車が通過する。見覚えのある車両。そう、京王線である。どういう道を来たかはわからないが、巡り巡って愛しの京王線と巡り合ったのだった。

家からは遥か遠い場所で、故郷を見た気がした。

もう線路から離れない。冒険なんてしない。線路沿いの上り坂も下り坂も錆びついた両足が悲鳴を上げ、駆ける。見覚えのある景色が登場したとき、頭の中ではChicagoのI Don't Wanna Live Without Your LoveをBGMによくわからないスタッフロールが流れていた。

 

ほんの出来心で走り出したプチ迷子だったが、結果として2時間弱の大迷子となって幕を下ろした。アパート到着直後は二度と迷子ごっこなんてしないと思っていたが、ほとぼり冷めだすともう一回焦りと不安の低気圧に身を任せてもいいような気がしてくる。

また晴れた日に突貫したい。

 


Chicago - "I Don't Wanna Live Without Your Love ...