徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

先斗町でマッサンと出会う話

いいだけ散々寝たっつーのに移動中も睡眠への飽くなき探究心をもって瞬きしたところ、一瞬で京都に着いた。

せっかく渡った淡路ー神戸間の橋も夢の外である。


さて京。

歴史と風情に彩られた街、京。やはりここも高校の修学旅行で来たもののさして忘れ得ぬ思い出があるわけでもなしに。何処か観光したいなと思ったわけだが、到着したのがすでに17時過ぎと。築ウン百年のおじいちゃんな建造物たちはすでにお眠の時間であった。

さぁどうするか。カプセルホテルでゴロゴロしながら向こう数時間の行く末を考える。

そしてふと名古屋のいとこの言葉を思い出す。先斗町はいいぞ。先斗町は。


先斗町。ぽんとちょう。鴨川沿いに発達した飲み屋街。飲み屋街といっても、一本の通りとそこから出る毛細血管のような通りだけの街。しかしこれが京の風情を凝縮して具現化したらこうなりますって位の京具合で。

18時ごろ着いてふらふら通りを往復する。寒いのもあって早くどこぞの店に入りたいのだけれど、ぶっ壊れ値段とよりどりみどりのせいで全然決められない。

メインストリートと路地をうねうねしているうち、路地の片隅二階に、ある店をみっけた。

まっさん

これは時事的にも入るしかないだろう。地元的にも入るしかない。小樽まで5時間はゆうにかかるが、間違っても同じ北海道生まれである。まっさん。果たしてウイスキーと関係あるのかないのか。


端的に言うと、竹鶴は微塵も関係なかった。マスターまさしさんのまっさんだった。

ただ、ここでの出会いが一日を大きく彩ることになる。


まっさんに入った時、先客2名。サラリーマン風のお兄さんと、外国人のお姉さんが連れ立って飲んでいた。

注文もほろろにお話が始まる。大阪で働いている方とその婚約者さんらしい。おお、あなたがたが本当のマッサンでしたか。国際結婚。

お兄さんは東京の大学を出て、大阪に赴任したと。なんと東京時代は京王線ユーザーだったようで、めちゃくちゃローカルな話で盛り上がる。彼女さんは彼女さんでものすごく流暢な日本語。母国語のフランス語を含めて、今や5カ国語を操るらしい。フランス語英語ドイツ語スペイン語日本語。なんやそれ。

自己紹介からひたすらに話が膨らみ、お兄さんとサッカーの話で盛り上がり、お姉さんとはムエタイの話で盛り上がり。途中従業員さんのいとこさんが入って来て、今年就活だって言うから講釈を垂れ。

やんややんややってるうちに2件目行こうぜとお兄さんに誘われて、2人が大絶賛する居酒屋へ。


八雲

これまたまたよくわからない路地の二階が入り口。シラフじゃ絶対入りっこないような場所である。ノリノリで入店する。

恰幅と愛想のいい素敵なおじちゃんがマスター。ザ・タッチの2人をを大きくさせてニッコニコにさせたらマスターになる。マスターの大きさに反比例した、全部で10人入らないような小さな居酒屋。だがここも沼島と一緒だった。とんでもないポテンシャルを秘めていた。

一にも二にもマスターの知識量が途轍もない。肉の知識、魚の知識、酒の知識、全国の居酒屋の知識、幕末の知識、戦争の知識、世界史の知識、神話の知識、法律の…まぁなんだ、知識人。フランスの彼女とフランスの歴史についてタイマンで渡り合ってたマスターは果てしなく格好良かった。ザ・タッチなんて目じゃないよ。

また、料理も特異なものが並ぶ。亀の手と言う名前の貝、ノレクレと言う名のイワシの稚魚。とにかく食べたことない食材が並ぶ。中でも絶品だったのが肉。肉。肉。

トウガラシ、シンシン、カメノコ、イチボ。名前だけ聞いてたらパンダかなにかの愛称やペットの名前かと思うようなネーミングだが、全部肉の部位。どの辺りの肉だとかの説明全部してくれたんだけどねー、忘れてしまい。

厚み1センチは超えるであろう各部位を、岩塩の上で焼く。肉汁を閉じ込め、食す。

この旅は比較的美味いものばかり食べてきたと思う。各地の美味を掠め取って来た。がしかし、肉部門ではここの肉が圧倒的に美味い。比べるべくも無いレベルで美味い。名古屋の焼肉屋も美味かったけれど、こちらのが美味い。焼肉屋でも食べられないような肉を、ふらっと入った居酒屋で食べることができる幸せ。全てはまっさんでの出会いだ。感謝するしかない。

しばらく彼女さんと話す。5カ国語を覚えるモチベーションとかを聞いてたらいつの間にか日本語しかできない日本人達は村からでない昔の日本人となんら変わらないという話になり。英語を勉強することを強く誓った。映画を見ることから始めます。


大阪に帰る電車がなくなる頃、お開きとなった。なんと素敵な夜だったか。知らない街で、知らない人と知り合って話すことの幸せ。これからも連絡取りたいなと思って名前を思い出そうとしたけど覚えていない切なさ。なんかちょっと大人になれた気がした。旅にまみれた大学生活を実現できた友人たちは、こんな出会いを度々しているのだろうか。羨ましいに尽きるし、もう戻らない大学生活を思いながら、自分の生活も悪くなかったと思いを確かにする。



これから、滋賀に向かう。滋賀県栗東市。曽祖父と祖父の故郷である。祖父は僕が生まれる遥か前に他界していて、写真でしか見たことがない。写真も数少ない。頭の中で勝手に彼らの像を作って、故郷に行ってくるよーって声を掛けるも、きっと全然違う人を思い浮かべてんだろなぁ。


旅も最終盤。希薄になった繋がりを取り戻すべく、そしてこれからの自分に自信を持つべく、最後の場所に行って参ります。