徒然雑草

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ラ・カンパネラを弾く人へ


ラ・カンパネラ / フジコ・ヘミング - YouTube

 

ラ・カンパネラ

フジコヘミングが弾いて日本でも一躍脚光を浴びた曲。リスト作曲。

もとはバイオリンの曲で、パガニーニと言う人が作曲したものをリストがピアノで弾けるように編曲した。鐘の音を模したテーマを何度も繰り返す、歴史に残り続けるであろう名曲だ。バイオリン曲としても、ピアノ曲としても、超絶技巧が必要と言われていて、そもそも手の大きさでふるいにかけられてしまう、理不尽極まりない曲でもある。

 

中学三年の頃、9年間ピアノをを習った集大成として、この曲を弾いた。一年がかりの、気の遠くなるような作業だった。幸い手の大きさは十分なものを持っていたから、足切りを食らうことはなかったが、理論上弾けることと本当に弾けることは全く別物であった。フジコの演奏を聴いたのをきっかけで興味を持って弾きたいといったものの、道半ばで泣きべそかきまくる日々だった。甘くなかった。

今、ピアニストたちの中でもカンパネラを弾く人が増えている。感化されて弾きたいと思う少年少女も多いだろう。いばらの道だと知ってその道を歩み出したあなたに、伝えたいことがあります。

 

楽譜に打ちのめされないでほしい。

カンパネラを弾くにあたっては、一定の素地がある人じゃないと手を出さないと思う。しかし、この楽譜は別であろう。もしかすると、ただ僕が体験した初めての超絶技巧を要するピアノ曲がカンパネラだったから衝撃が大きかったのかもしれない。

それでも、この曲の右手の酷使はすごい。

 

まず最初のフレーズからしてどうかしている。

かの有名な旋律は親指で紡いでいくのだが、その間常に小指は遥か彼方のレ♭を弾かねばならない。これが当たるようになるまでしばらくかかる。その間左手は和音をアルペジオで弾き続ける。オクターブを何の躊躇もなくはみ出す和音だから、こっちも楽じゃない。

恐ろしいことに、このテーマがどんどん難化してその後何度も出てくる。最初のテーマが弾けたからと言ってなんの自慢にもならないから勘違いしないことである。

 

どんなに難しいことをやっていてもテーマだけは響かせてほしい。

途中、きっと心と指が折れそうになることがあると思う

右の4と5の指でトリルしながら1の指でレ♭を連打しつつ左手で旋律を弾くなんて、腕の筋肉を死滅させにかかっているとしか思えない。ただ、何があろうと、カンパネラのテーマだけは響かせなければならない

難しいことを小声でさりげなくやることこそ本当の難しさだ。大声で難しいことは割とできる。でもきっとカンパネラ弾くくらいの子だったらそれくらいわかってるんだよね。

あとテーマは間違えないで。弾き損じがあからさまにわかってしまう。どうせ間違えるならごちゃごちゃしている方で間違えましょう。

 

オクターブの連打にめげないでほしい。

曲も終盤に差し掛かってくると、オクターブの連打が多くなる。

16分で連打するからたまったもんじゃない。けどめげないでほしい。カンパネラの良さはか細い旋律から始まった曲が終盤にかけて猛烈な音の厚みを帯びてくるところにもある。オクターブが多用されるのはそういった側面もあるだろう。理不尽な指の開きも、すべてはドラマを完結させるための代償だ。

苦しくても是非押し切ってほしい。

 

誰の真似もしないでほしい。

先述したけれど、カンパネラは星の数ほどのピアニストに弾かれている。僕はフジコヘミングに憧れた結果、フジコヘミング寄りの弾き方になった。精度はゴミみたいなものだったけれど。実は、フジコのようなドラマティックな弾き方はカンパネラの弾き方の中でも異端で、機械的に超絶技巧を畳み掛ける弾き方が主流である。

例えば、ユンディ・リ

 

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誰に憧れて、何を聞いてカンパネラを弾こうと思うかは人それぞれだと思う。けど、上を見たらキリがないことを知ってほしい。

理想の形としては、畳み掛けられるだけの技量を備えて解釈を広げていくのがいいのだろうが、カンパネラほどの曲をそこまで自分のものとするのは至極難しい。

だからこそ、人の姿を追っちゃいけない

クラシック全般に言えることとして、解釈の自由が許されている。極端に言えば、どの音を聴かせたいと思うかで全く演奏の形も変われば聴こえ方も変わる

カンパネラという曲をなぞれるのは最低限として、テンポは速くなくとも自分なりの演奏を見つけることは可能だ。超絶技巧だからこその聴かせ方を、自分の感性で見つけてほしい。テクニックがなかった僕はどう頑張ってもフジコさんのテンポで劇場型カンパネラを演じるしかなかったわけですが。それでも猛烈な数のミスタッチがあった。

ハノンから叩き上げないとダメだった。

 

 

終わりに

多分、どんなピアノ曲遍歴を辿ってカンパネラに流れ着いたとしても、そう簡単には弾かせてくれないはずだ。多いに自分の日々の成長を楽しんでほしい。だんだん弾けていく感覚は弾いている人にしか味わえない。

そして、一度弾けたのなら、ぜひ一生ものにしてください。僕はそう願って叶えることができませんでした。日々大分練習しなきゃずっと弾け続けることはできないけど、それだけの価値がある曲だとは思います。レパートリーに加えてください。

 

あー、もう一度弾いてみたい。もっと上手く弾けてみたい。