徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

走る車内一発勝負ポエム 幼子よ

幼子よ。赤子よ。

君が大人になる頃、君は君が幼子だったことを覚えてはいないだろう。赤が青に変わり、燻された末に銀色になる頃、幼子だったことを知る人はごくごく少なくなるはずだ。

幼子よ。赤子よ。

自分が幼子であることを忘れる前に、幼子だった頃の景色を忘れるだろう。母の胸に抱かれ、母の顔をみたその景色を忘れるだろう。父の肩の上に乗って世界を見回したその景色を忘れるだろう。

幼子よ。赤子よ。

何十年か後、世の中に参ってしまうことがあるだろう。なんだこれって、思うことがあるだろう。他人の心ない行動に腹が立つこともあるだろう。

君が大人になる頃、君は君が幼子だったことを覚えてはいない。確実に忘れてしまう。絶対忘れてしまうから、今ここで記しておこう。

幼子よ。赤子よ。

君は今、電車というこの狭い世界のアイドルだ。君を見て、向かいの人も隣の人も笑っている。君の一挙手一投足に気をかけている。誰だかわからない人の愛を、確実に受けているのだ。

世の中の全てが君の味方だ。電車も君を運ぶために走っている。君をあやすために揺れている。

忘れないで欲しい。君が将来本物のアイドルになろうとも、本物のスターになろうとも、その光の後ろには必ず影ができる。好ましくないことが必ずついて来る。

しかし、今は違う。

全方位を照らしている。照らされている。君が太陽でもあり、君の周り全てが太陽でもある。

幼子よ。赤子よ。どこの誰とも知らない君よ。すくすく育て。健やかに育て。