徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

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ちょっとした物語を書いた

友人から、エッセイをかけと言われた。友人はどうやらエッセイ集のようなものを作るらしい。文章書くの好きな人間たちに声をかけている最中だった。

喜んで話に飛び乗った。そのエッセイを読んだら、電話をかけたくなるエッセイを書いて欲しい。というお題をいただいた。

曲作りもそうだが、お題があると燃えるものだ。切り口を色々考える。諦める。忘れる。思い出して考えて、また諦める。

そんなこんなで締め切りがやってきたので書いた。

乗っけちゃう。



やってられんわ本当にもう世の中なんて何を信じたらいいのか分かったもんじゃない。渡る世間に鬼はなしだとか、どこの脳みそお花畑が考えた言葉なのか。橋田壽賀子が聖天大使のように思える。全力でフォロワーになれる。

夢と希望と大志を抱いて上京してから早数ヶ月。現実が想像よりもずっと厳しく、人間が想像よりもずっと冷たいと学んだ数ヶ月。職場の人間関係の輪に入れず、今日は知らないところでごはんにちょくちょく出掛けているらしいと知った。惨めを押し殺してそそくさと家路につき、スーパーで晩御飯を買い、帰宅して気がつけばフランクな会話など一言もせずに一日が終わっている事に気がつく。

一日一日、自分の性格が、声色が、分からなくなってきている。鬱のエントランスに立っている気分だ。

誰かに相談すればいいじゃないって、簡単に言うけど甘くないのさこれが。生身の人間に気持ちを吐露したら、絶対それに対するアドバイスじみた教訓が還ってくる。1の相談で 5 くらいの教訓がリターンされる。目に見えているんだ。このすさんだ精神状態で、最近の日経平均のような感情の起伏で、アドバイスを素直に受けられるはずがない。親切も真心も全て皮肉に聞こえてしまう。こんな曲がった子にいつからなった。私ゃ悲しいよ。

今頃皆楽しく飲み会とかしてんのかなぁ。どんどん悪い方向に考えが回る。夜 9 時。 24 時間のうち、食卓にも街にも最も楽しいがあふれている時間帯に、なにが楽しくて天井をみつめているのか。虚空に向かって何となく「タオパイパイ」ってつぶやいてみたけれど、パイパイは寂しさと天井に吸い込まれてバイバイしていった。

あ、ダメになりそう。これはダメになりそう。不意に情の日経平均が落ち込む瞬間が来た。明日を辞めたい。今は続いていいけれど、明日を辞めたい。辛い。つらい。言霊の力を信じて、辛いとか言わないようにしていたけれどもうだめだ。紛れもなく辛い。夜 9 時 20 分。誰かに会いたい。話さなくていいから、余計な講釈をたれなくていいから、誰かと居たい。

電話に手が伸びる。アドレス帳を探してみる。誰か、誰か今から会えそうな人。探してみて、今自分が東京にいる現実に改めて直面する。アドレス帳は地元の名前で埋め尽くされていた。また寂しさが押し寄せる。目元辺りに押し寄せているのがありありとわかる。いかん、いかんぞ。ひとりで泣くのはいかん。冗談じゃなくなってくる。

仰向けからうつぶせに体勢を変えて、何とか気を紛らわす。ごろごろごろごろ。ローリングストーンローリングストーン

不意に携帯を見たら、転がった拍子に電話をかけていた。まずい。急いで通話中止に手が伸びて、動きが止まった。中学のころ仲の良かった友達にかけていた。その後彼がどうなったか、どこにいるかはよくわからない。でも、確かに中学のとき、仲が良かったはずだった。

恐る恐る耳元に電話を当てる。電話を切ってしまうのは勿体無い気がした。電話番号は変わっていないようだった。繋がっている。どこかにある彼の携帯電話が、確実に鳴っている。

悩みとかはどうでもよかった。単純に、どうしているか気になっていた。電話に出るだろうか。暇しているのだろうか。

通話に出る音がした。

もしもし、久しぶり!急にごめんね、特に用はないんだけども・・・

捲くし立てた電話の向こうでは、至極丁寧な口調と言葉遣いで、留守番電話の説明が響いていた。

なんだよ留守番電話かよ。うきうきしちまったじゃねーかよ。久しぶりにあんなトーンで声が出たわ。自分でもビックリだわ。

いよいよ切ってしまおうと思って、またためらった。自分が奴の動向を知りたいと言う事は、奴も自分の動向を知りたいのではないか。違いない。留守電なら誰にさえぎられるでもなく、説教を受けるでもなく、この悲惨な現状を余すことなく伝えられる。しばらく接点のなくなった昔の仲良しになら、素直になれそうな気がした。

録音スタートの合図がなる。

もしもし、久しぶり!急にごめんね、特に用はないんだけども。今、東京でね、働いているんだ。割と楽しくやってるさ。やっぱ首都は違うよね、もう、すごいよね、人の数も物の数も・・・

メッセージ録音時間ギリギリまで喋って、切った。口を突いて出た言葉は、何一つ悲惨な状況を表さずに、虚勢に虚勢を張り巡らせた自分を伝えていた。どこまで見栄っ張りなのか。誰にも邪魔をされることなく、雄弁に自分の虚像を語っていた。別に心配をかけたくない相手ではない。大いに心配させていい相手なのに。でも、不思議と気持ちは軽くなっていた。あれだけ辞めてしまいたかった明日を、楽しく語ることが出来るなんて。

やっぱり言霊はある。誰に詮索されるわけでなく、ひたすらに留守電サービスに話した嘘は、確実に背中を押してくれていた。自分の言葉で、自分が助けられていた。

明日か、今日の深夜か、彼から電話が来るだろう。着信に気がついても、一度は出ないでいよう。もしかしたら彼も、誰に相談もしたくないような何かを抱えているかもしれない。留守電に話す無意識の嘘が、彼を助けるかもしれない。夜 9 時 45 分。ほんの少しだけ、世界の幸せに組できたような気がした。



初めてこんなテイストの文章を書いた。実体験に基づくフィクション。読んでてリズムに乗れる文になればいいなぁと思い、ふんふんと書いた次第で。

割と楽しかった。友よ、無茶ぶりをお待ちしています。

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