徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

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昔、親父がしてくれた話

北国生まれだから、冬は度々スキーに行った。週末ごとに通うような生粋のスキーヤーではなかったが、小学生のころは毎冬数回くらいのペースでスキーに行った。

家族3人で近くのスキー場に行き、父と子は滑り、寒さにアレルギーが出てしまう最弱の北海道民の母は、麓のカフェでお茶を飲んでいた。
スキーは、滑る時間と昇る時間を比べると、昇る時間も相当に長い。リフトないしゴンドラで上まで運んでくれる間の時間、父と何の気なしになんでもない話をしていた。
親子共々サッカーが好きだから、あの選手がどうだ、あのチームがどうだって話をしたような気もする。比較的円滑な親子関係が今も続いているだけあって、当時からして親子仲はよかったように思う。
ほぼ、何を話したか覚えていないのだが、1つだけ忘れられない話がある。
 
あと一回滑るか滑らないか迷って、滑ることに決めた、昇りのゴンドラ。お腹すいたなぁって話し合っていた。
なぁ、世界一美味しいご飯って何か知ってるか。と父。シャケだ、カレーだ、と息子。
そうだなぁ。と父。
そして滔々と話し出した。昔な、えらいお殿様がいたんだ。そのお殿様がな、お抱えの料理人たちに世界一美味い料理を出せって言ったらしいのな。料理人たちはみんな困っちゃった。お殿様を喜ばせる料理はどんなものかわからなかったからさぁ。そこである料理人が手を挙げたんだって。私がお殿様を満足させる料理を作って差し上げましょうって。お殿様は喜んだ。で、料理人は台所に入ったのね。しばらくして、お殿様は料理人を呼びつけんだって。あんまりに遅いから。まだ料理はできないのか。殿、もう少しだけお待ちください。で、また料理人は台所に入っちゃったんだってさ。またしばらくして、お殿様は料理人を呼びつけた。まだか!殿、今、日本中から最高の食材を集めております。もうしばしお待ちください。また台所に入っちゃった。お殿様は待たされすぎてカンカンになっちゃって、もう切腹させろって言い出した。そのタイミングで、料理人は一膳のご飯と梅干を差し出したの。最高のご飯と最高の梅干ですって。お殿様は怒ってたけど、一口食べた。殿はもう心底感動したんだとさ。こんなにうまいご飯と梅干があるのかって。料理人は本当のところ普通のご飯と普通の梅干を出しただけだったんだけどね。お腹すいたときのご飯は本当に美味しいんだねぇ。
 
この話がなぜか頭から離れない。
今まで、心底美味いと感じる梅干とご飯を食べたことがあるだろうか。どうだったろうか。あのとき、ゲレンデから降りてきて三人で食べたおにぎりは、その話のせいか、空腹のせいか、少しおいしかった。具は昆布だった。