「行ってみたいお店・レストラン」by みんなのごはん
大学生の頃の僕の爪の垢はポんタのご飯の味だった思う。それほどまでに通った洋食屋だった。
京王線の八幡山駅。新宿まで各駅で20分しない好立地の割に、なにがあるわけでもない街。松沢病院という大きな精神病院があるのと、我らが母校の競技場がある以外は閑静な住宅街が広がる。なんの変哲もない駅、八幡山。の、ガード下にある洋食屋さんがポんタである。なぜカタカナとひらがなが混在しているのかは、説明してもらった気もするけど覚えていない。
とにかく通った。通った時期は週5回は通った。練習場に近かったのだ。自宅にも近かった。目当てはお昼の定食である。日替わり定食が600円で食べられる。今は確か増税の影響で650円だったかな。しかし安い。
たっぷりのご飯と味噌汁に、メインプレートには曜日ごとのメインとちょっとしたスパゲティ、キャベツの千切り、漬物が添えられてくる。学生にはうれしいコストパフォーマンスである。ごま塩とふりかけはふり放題で、これでもかって程にかけていた。
足繁く通った頃は曜日ごとの日替わりメニューを丸暗記していたが、今思い出そうとすると思い出しきれないのが悲しい。金曜日の牛肉の甘辛炒めと土曜日のチキンカツが大好きだった。木曜日が魚だったなぁ。水曜がチキンソテーで火曜がとんかつか。月曜なんだっけ。まぁ、いい。
ポんタのご飯は総じて美味しい。マスターは新宿のレストランで修行した猛者である。たとえ材料を店の近所のオオゼキで買っていたとしても、美味しい。
しかし味だけでは無い。町の定食屋さんの醍醐味はマスターとの会話である。
コンビニ、惣菜屋、ファミレス。セブンアンドオリジン。ホットモットガスト。あなたとコンビニ。サービスにしろ品質にしろ、良くも悪くも均質化が進み続ける現代。町の定食屋やレストランの最大の武器こそ人間味だ。
上京後、1人暮らしを始めた初期。身寄りも大して無ければ、友達も少ない当時。東京の人間味のなさに衝撃を受けた。地元にいた時の人間関係は、どれだけ親や学校という括りに依存していたか気づかされたものだ。スーパーのパートさんが知り合いだったりなんてことは当たり前な地元。東京のスーパーの味気のなさに震えた。チェーン店にまみれた街に悲しくなった。
そんな頃にマスターとの会話にどれだけ救われたことが知れない。本当に大した話はしていないのだが、ご飯を食べつつ、無条件に自分を受容してくれる空間があることが心から嬉しかった。フランクにフランクに、気のいいおじちゃんでいてくれるポんタのマスター。
おー!久しぶりじゃん!元気にしてんの!
入店前、ガラスで張られた入り口のドアの前でマスターと目があった時の、あのにんまりした笑顔を久々に見てみたい。客が捌けて、昼飯を食べるマスターと話しながら、昼下がりの時間を久々に過ごしてみたい。
狭い東京内で、遠く離れてしまったポんタを思う。