徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

ORANGERANGEの15周年記念アルバム「縁盤」リリースにつき、彼らの変化を考える

ORANGERANGEが、結成十五周年を迎えている。彼らが仲良い同士で集まり、6人でキリキリマイって叫んだ瞬間におぎゃあと生まれた子供が中学三年生になるのである。大御所だ。この十五年間、大ヒットに恵まれ、社会からパクリだとこき下ろされ、めげずにヒットを生み、インディーズに戻り、活動を続けた彼らの道程は本当に立派なものだと思う。ヒットし続ける、ないしはファンを作り続けることは簡単なことじゃない。しかしそれをやらねば生きていけない音楽業界、芸能界で、十五年である。凄い。

それを記念し、今月ORANGERANGEは新譜を出す。縁盤。えんばん。こちらが特集サイトである。

 

orangerange.com

端的に言うと、「自薦15曲をお世話になった人とコラボしながら採録しましたアルバム」だ。毛むくじゃらになったビートルズビーチボーイズlove me doを歌うようなアルバムだ。好きな人が興味をそそられないはずがない。 

ORANGERANGEについて何か知りたい人はこの記事を見てほしい。

 

ktaroootnk.hatenablog.com

引き出しが多い万能ヒッターORANGERANGE。出だしがバンドです!って出てきた割にインディーズ行ってから楽器を一切ひかないアルバムを出したりするもんだから、十五年間のうちのヒット時(2003~2007くらいまで)だけで彼らを推し量ろうとするとひどく間違った計り方になってしまう。

さて、縁盤にさきがけ、「以心電信」のMVが公開された。以心電信は2枚目のアルバムmusiqに収録されている曲で、シングルカットされていないながらもauかなにかのCMソングに起用されて人気と話題を呼び、その後ドクターマリオのテーマにサビが酷似しているとざわざわ騒がれ、一連のパクリ騒動の引き金にもなった曲もある。どこかここか耳に残っている方も多いのではないか。

 

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往年の彼らしか知らない人がMVを見ると、ORANGERANGEの経年変化に驚くだろう。ここ数年の彼らの変化は、作曲家NAOTOの引き出しがどうこう以上のそれだ。主にボーカルを務める三人。彼らの歌唱法に大きな変化がある。だから目立つのだけれども。

まず、一番顕著なのが低音ボーカルであるRYOだろう。メジャーを離れる直前、ちょうど2007年ころから、彼は語尾で遊ぶ傾向にあった。口で説明するのは難しいが、この音源を聴いてくれればわかるかと思う。「てぇぇぇn」みたいな。「うぇぇぇn」みたいな。以下は2007年頃と思われる、Mステ出演時の映像だ。1:40あたりからのRYOパートにその傾向は顕著に表れている。

 

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この歌唱法が語尾以外の場所にも徐々に染みだし、結果、彼は声が高くなった。低い声が出なくなったのだろうか。わからない。しかし、最近の音源を聴くと本当に顕著に声が高くなっている。2004年あたりのガサガサしながらもブイブイ低音で歌う彼の姿は近年見られなくなっている。

時を同じくして、サビを主に務めるミドルボーカルのHIROKIの歌い方も変化を遂げる。歌い方が丸くなった。何と言おうか、必要以上に口を大きく動かしながら歌っているかのような、独特の柔らか丸い歌い方になっている。キムチを食べてあえてハスキーボイスを目指していたころの粗野な感じはなくなり、のどに優しそうな歌い方になっている。

また、とにかく声が高いYAMATOは顔が丸くなった。

 

バンド結成30周年を迎えんとしている大ベテラン、スピッツも「醒めない」というタイトルのニューアルバムを出すという。こちらもアルバムのリード曲であり、アルバム名でもある「醒めない」のMVが公開されたが、彼らは変化の無さに毎度驚く。草野マサムネのあまりに安定した歌唱。てっちゃんのアルペジオとリーダーの年々お洒落になっていく髪型と崎ちゃんの玄人ドラミング。今の彼らがデビュー曲の「ヒバリのこころ」を再び演奏したところで、きっと全く当時と変わらないプレイになるのだろうと思う。

 

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変わっていくバンド、変わらないバンド。考えていて、なんとなく化学の時間に聞いた話を思い出した。水はなぜ燃えないのか。あれは、酸化されている物質だから燃えないんですよーと、高校のころの教師が教えてくれた。どこまで正確な知識なのか知らないが、納得はした。化学反応しきった物体は、それ以上の化学反応は起きないのだと学んだ。

バンドもそうなのだろう。スピッツに関しては、デビュー時に既にある種の化学反応を仕切った状態だったのだろう。個人レベルの自分のプレイスタイルという面でも、バンドアンサンブルという面でも、それ以上の変化がなしえない完成された状態。あとは各々の技術の向上と引き出しの増加によって多様な曲が生み出され続けている。一方のORANGERANGEは化学反応がまだ仕切っていない状態で出てきた。NAOTOの早熟なソングライティングの力でのし上がってきた。ある一定の時期に来て、歌唱隊が感化されていき、その結果歌い方というわかりやすい部分で新しい化学反応が表出したのだろう。それは伸び代でもあり、変化とも進化とも劣化とも捉えられる。何せ違う物質になっているのだ。水素と水が別の物質のように。

 

明後日が縁盤の発売日である。往年の曲たちが改めてどのように録音されているのか。吉と出たにしろ凶と出たにしろ、ゆっくり聞いて、また、たらたら書いていきたい。