徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

おっぱい包囲網

おっぱいどうですか?

さぁ、お兄さん、おっぱい。

飲みですか、おっぱいですか。

錦糸町に越してきて一年とやや半年。酒と泪と男と女の泪抜きバージョンみたいな町、錦糸町。引っ越す以前の20数年の人生を通算して言われた「おっぱい」よりも圧倒的に多い「おっぱい」を日々投げかけられている。調子がいいと、一回の帰宅で片手で収まらないほどのおっぱいを薦められ、さりげなく断る作業が生ずる。この間会社帰りにノンアルコールビールを煽りながら町を闊歩したときなんかすごかった。へべれけだと思われたのだろう。蜜に群がる蟻の如くヤクザなお兄さん方が寄ってきた。おっぱいがいっぱい

そんな「おっぱい」に僕はつられたことがない。当然ながら、つられたことがない。どんなに酔っぱらっていたとて、たくさんのおっぱいを口頭で提示されても無視して歩き続けている。客引きの方々の口ぶりは凄い。おっぱいがさぞ男子共通のトレジャーであり、ゴージャスでプレシャスなサムシングのように語る。おっぱいでお金を取るのは当たり前であり、おっぱいに惹かれてくるのは当たり前。そんな価値観すら見え隠れする。「飴玉あげるからお嬢ちゃん車に乗りなよ。」コンビニで10円も出せば買えるような安い誘い文句で子供たちを誘う、イケナイ大人の常套手口だが、おっぱいも全く同じやり方である。

僕も僕とて、アンチおっぱいではない。おっぱいは嫌いじゃない。人並みに好きである。だがしかし、街中で「How about おっぱい?」って訊かれて、「おっぱい!おっぱい!」ってホイホイついて行っちゃうようなおっぱいホリックではない。「仕事疲れたな…おっぱい。」おっぱいシナプスが発達しすぎてやいないか。おっぱいにビタミンやタウリンなどのわかりやすい滋養強壮効果があったら別であるが、おっぱいはたいてい滋養強壮の矛先となるものである。疲れているところに大金をペイしてまで滋養と強壮を発散するバンザイクリフに挑む心理たるや。ホリック以外言い表しようがない。

客引きの人がどういう経緯で錦糸町おっぱい包囲網を編成する一員になっていったのかは知らない。少なくともそれぞれに生活があって、それぞれに経済を回して生きていることには間違いない。僕がおっぱいに対してきつくきつく財布のひもを締めていることにより、彼らの生活が少しずつ少しずつキリキリと追い詰められていっている可能性だってある。同情に似た感情に隠した欲望に駆られて、いつかおっぱい包囲網にからめ捕られる日が来るのだろうか。網状脈の如きおっぱい網に引っ掛かって、おっぱいの坩堝にぐるぐるぐるぐると落っこちていくようなことが起こるのだろうか。

一度じっくり話を聞いてみたい気はする。「おっぱいいかがですか」の先に何が待っているのか。精査してみたい気はする。気がするだけだが。