徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

萎びたミミズに重ねた朝の物語

ある雨が上がった朝。ミミズはこれ見よがしにアスファルトに進出する。湿った土の延長線上に現れた湿り気のオアシス、アスファルト。しゃくとり蠕動運動を繰り返しながら、えっちらおっちらと外界へ出かける。道の半ばに来た時に、ふと気づく。あれ、なんか乾いてきていないか。そう、空を見上げれば燦々爛々と輝くお天道様が一つ。自然に恵みの光を降り注いでいる。ミミズは焦る。乾く、乾く、逃げろ。土へ。

灼熱の太陽光線に焼き切られたミミズは、道端で良く焼けたコブクロのごとく丸まり、不本意な天寿を全うした図を僕たちに見せる。そうか、君は逃げきれなかったのだな。僕は今日、萎びたミミズを超えて、限りなく爽やかな朝に走り出した。

 

僕はいま帰省中であり、ちょうど陸上の大会があるというので昨日観戦に出かけた。恩師との再会、後輩の引退、地元の雄の走りを見ているうちに、なんとなく口惜しい気持ちに襲われた。「まだ、俺は走れるんじゃないか。」サラリーマンとして生きる日常に甘えているだけであり、しっかりと体を鍛えなおせば、まだあのグラウンドにカムバックできるはずだ。また走りたい。風を切りたい。

久々に生暖かい闘志をぽよぽよと燃やした僕は、今朝早速運動公園へ走りに向かった。走り散らかした思い出の坂道が僕を手厚く歓迎してくれているかのようであった。坂の期待に応えなければ。 僕は走り出した。快足を飛ばし、ぐんぐんぐんぐんとかつて散々練習した坂道を駆け出した。風になれ!風になれ!

10歩もしないで、僕の足は悲鳴をあげた。前脛骨筋の張り、ハムストリングスの痙攣、ふくらはぎの虚脱感、股関節の軋み。あらゆる下半身に襲いかかる不具合に慄き、坂のてっぺんを待たずして僕は歩き出した。現役時代は平気な顔で10本は走っていた坂である。たったの一本でくたばるなんて微塵も想像してはいなかった。また、ヘンに地元ではいい顔していたいコンプレックスがあり、走れないならやめちまえという情けない精神をもってして歩みを止めたのであった。自分に甘い。


こんな文章を認めながらも、今宵も夜の街に出かけ、いまが帰宅である。そりゃあ蕁麻疹も出よう。胃に不具合も起ころう。東京に戻り次第、生活を整える所存である。

紳士に走る所存である。