徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

バター愛

ケーキでいえばタルトが好きだ。生クリームとカスタードがたっぷり乗り、その上にイチゴやらキウイやらが色とりどり飾るフルーツタルト。特に生地である。あのサクサクしっとりの生地に惹かれているのである。いくつかケーキが並んでいた中にタルトがあれば、僕はおそらくタルトを選ぶ。

パウンドケーキよりも、マフィンが好きだ。あの甘ったるい生地を口の中で何度もなんども咀嚼する喜びは、目覚ましも何もかけずにスッキリ目覚めた朝に匹敵する。

ドーナツでも、オールドファッションが好きである。口の中の水分を代償に得る、甘味のトラフィックジャム。これを愛と呼ばずになんと呼ぶか。

バラバラになっていた点と点を合わせて星座を作ったように、バラバラの好みから導き出される本質的に好きなもの何なのかというと、バターであった。僕はバターが好きなのである。

昨日、晩御飯に卵焼きを作ろうとした。僕の家の中途半端なフライパンだと、しっかり油をひかないと焦げ付いてしまう。油…油…空の瓶が横たわるのみで、我が家の油は切れていた。卵焼きが作れない。でも気分は卵焼きである。代用品を探したところ、冷蔵庫の中にバターが転がっていた。普段あまりしないのだが、バターを油代わりに卵焼きを作ろうとした。適量を切って、フライパンに転がし、日にかける。じわじわ溶け出すバター。プツプツと気泡が出てくる。なんとなく香る。そこに卵を落とす。勢いよく音を立てて焼きあがる卵。と、同時に湧き上がる香り!

これだ!この香りだ!この香りが好きなのだ!

僕は換気扇を止めた。今から出てくる煙を、全て自らの鼻に収めたかった。溢れる煙を吸引する鼻。バターだらけの一酸化炭素中毒は苦しいのだろうか、幸せなのだろうか。吸い込みきれない。口も開けてやる!

顔面換気扇と化した僕は、あらかたの煙を吸い込むことに成功したものの、代償として喉の痛みを得た。少し焼け付いたらしい。昨日のカラオケに相まって。

好きすぎるものが近くにあるのは危険だ。限度がなくなる。あらゆる料理に溶かしバターを入れたくなる。バターと卵、バターと乳。高脂質低タンパクの舞踏曲。不摂生の不協和音。蓄えられるは脂、脂、脂。

油々しき事態である。