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徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

ヤギの呪いが解けた日

カブスが108年ぶりにワールドチャンピオンになった。前回カブスが優勝した時、フィールドに立っていた9人はもちろんもうこの世にはいないだろうし、球場にいた人、地球上にいた人、なんなら当時を知る生物という生物が死に絶えた後の世界にて、カブスが再びチャンピオンリングを手にした。記録でしか残っていない優勝を追い続けたカブスの執念が勝ったのだろう。

思えば、僕も競技をしていた頃、僕は僕が生まれる前の記録を追い続けていた。おたまじゃくしにも卵にもなる前の、自分という存在が微塵もない世界で出された記録を、ヒシヒシと感じながら走っていた。そして届かなかった。

108年に及ぶ間に生きたカブスファン・カブスナインも同じ気持ちだとしたら、どれだけ嬉しいことだろうかと、改めて思う。ナインは我が身として、ファンは我が身の延長として呪縛に苦しみ、指先が届きかけては離れる。毎年身悶えするほどだったろう。

マリナーズのような新興球団だと、優勝経験がない球団もある。イチロー渡米初年度、ヤンキースとのディビジョンシリーズで敗れた悔しさは、シアトルの野球ファンは忘れることはないだろう。しかし得てして、一度味を知ってしまっている時のほうが辛かったりする。大好きな食材にアレルギー反応が出て、2度と食べられない辛さったらないと思う。斎藤佑樹のような、一度美酒に浸り、そこで人間が出来たはずなのにその人間性をメタメタにされる経験なんて、想像を絶する。

だからこそ、カムバックは感慨深い。最初の一花なんかより、春を知り、夏を知った上で冬を迎え、長い長い冬を越えた先の返り咲きが美しい。

僕は僕自身の冬を諦めた人間だ。諦めたとまでは行かずとも、冬に負けた。冬はつらい。出口がないトンネルのようとはよく言ったものだ。自己否定が止まらなくなってしまう。


今日、100年超に及ぶ冬にピリオドを打ったカブスを心より祝福したい。畏敬の念も込めて。