徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

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思えば最後の乳歯が取れたのもハイチュウのせいだった

ガムを噛んでいたら銀歯が取れた。たった10分前の事である。実家には必ず常備されているガム。一昨年に顎関節症に罹患し、顎がどうしようもなく痛くなって以来僕はガムを買わなくなったのだが、無条件に置いてあるならば食べてしまう。口寂しさを紛らわすにはうってつけのガム。しかしその口腔内ハプニング大賞っぷりと言えば正月における餅とタメを張る。何かと色々なものに粘着しては剝がす暴君っぷりは天国の松方弘樹も震えあがるほどであろう。

僕が最後の乳歯とロング・グッドバイしたのは今からおよそ12.3年前の事。僕はその時友達たちと近所の体育館を借りてバドミントンだかドッジボールをやっていた。学校の体育館ではボールを使って遊ぶのを禁止されていたため、近所の市営体育館を借りないと球技が出来ない環境だった。休みの日や放課後に体育館が空いていたらここぞとばかりに予約して遊んだのが懐かしい。その日も変わらずに遊んでいたのだが、友人の一人が珍しくおやつを持ち込んでいた。北見市内に一店舗しかない地場コンビニ「ダックショップ高橋」で買ってきたと胸を張っていた。お買い物の一つでさえ誇りになる年頃。かわいいものだ。その中にハイチュウがあった。歯ごたえをこよなく愛する僕は、今でもつけ麺が好きで、コシが強い麺が好きで、ご飯は固めで、ぬれ煎餅はせんべいの風上にも風下にもとても置けないと信じているのだが、当時からその趣向は健在で、ハイチュウなんてナンパな食べ物は食べないと意地を張っていた。グミ?馬鹿にしているのかい?しかしどうしても友人がハイチュウおいしいと言ってきかないため、僕は仕方なくグレープ味のナンパなチューインガムを食べることとなった。一粒食す。悪くない歯ごたえに続き口の中の温度で溶けてふやふやになっていく触感。ハイチュウはせんべいこそすべてと高らかに謳っていた僕にカルチャーショックをもたらした。ハイチュウ旨い!うまい!僕は人が買ってきたハイチュウの虜になり、ハイチュウをむさぼった。ちょうどそのころ。僕の口腔内は大人の階段を昇っている真っ最中で、左の下の奥歯が最後の乳歯として生き残っていたのだがついに地盤が緩んでぐらつきだしているところであった。気になって気になって仕方ないものだから朝から晩まで柳葉敏郎のごとく奥歯をベロで触っていた。痛いのは嫌だった。抜ける時に抜けて欲しいと思っていた。ビバ無痛分娩。だからハイチュウも慎重に慎重に右側の奥歯で噛み、とろけさせていた。だが、目下球技の真っ最中である。歌いながら踊るのが至極難しい様に、口の右サイドでハイチュウを噛みながら球技をするのは至難の業だ。力んだ瞬間、ハイチュウは不意に左サイドにうつり、食いしばった歯の板挟みになったと思えば僕の左下の奥歯を吸着して離すことはなく、次の「クチャっ」いわゆる咀嚼で最後の乳歯を介錯したのであった。なめ腐っていたハイチュウに心を許した瞬間に裏切られたようだった。「信じた瞬間裏切った」とは、BUMP OF CHICKENの楽曲「ラフメイカー」の一節だが、BUMP OF CHICKENに出会う遥か昔に僕は身をもって信じる怖さを知っていたのだった。

取り急ぎ、歯医者を明日予約したので銀歯を入れる目途はたちました。