徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

9秒台

いよいよ出た。

桐生「やっと更新できた」 9秒98、おとんに伝えたい - 一般スポーツ,テニス,バスケット,ラグビー,アメフット,格闘技,陸上:朝日新聞デジタル

これまでの彼の努力や辛酸を、詳しく知らない。最初から最後まで雲の上の人だった。そういう人もいるんだな。足速い人もいるもんだな。そんな感想だった。

そうして、いよいよ出た。

多分、9秒台が出たってところに国民の注目が行くのだけれど、彼にとってはきっと四年越しの自己ベストってところがとても重要なんだと思う。これはきっと、全陸上競技者が頷くところだ。

陸上競技における自己ベストは、達成感でもあり呪縛でもある。

自己ベストを出した時点で、その時点の自分は過去のどの時点の自分より速く、これからの自分は現時点の自分より速くあるために走らなければならない。

高校生まではまだいい。ほぼ自動的に足が速くなる。何故自分のタイムが伸びたか考えずともタイムは上がって行く。がしかし、成長期は等しく訪れ、等しく終わる。桐生にも、山縣にも、誰にも。そこからはどれだけ理詰めで自分の体と向き合えるかでしかない。「Aという刺激を与えると、Bという反応が起きます」この繰り返しで、人間は速くも遅くも強くも弱くもなる。

桐生が前回自己ベストを出したのが四年前。成長期の真っ盛り高校三年生のことだ。

ある種、出るのが当たり前の時期に、日本記録ニアピンの自己ベストを出した。その後は自己ベスト即ち日本記録。それも、15年以上10.00という嫌にキリのいい数字のまま止まっている記録。意識しないわけもないし、レベルが高い以上、いつでも出せるわけじゃない。

彼が燻っているうちに山縣やケンブリッジ、サニブラウンから飯塚まで名乗りを上げた。桐生の独り相撲から、群雄割拠となった。いくらでも心が折れるタイミングがあったろうし、四六時中苦しかったろうと思う。それでも出した。桐生は凄い。これまでのどの自分より速く、これまでのどの日本人より走ったのだ。

僕はこの記録を聞いて事務所で鬼ほどはしゃいだところ、副部長に見つかって鬼ほど粛清されたのだけれど、兎にも角にもおめでたい日である。おめでとう。おめでとうを言いたい。おめでとう。