北海道は北見。オホーツク海とサロマ湖を傍らに据えた極寒の土地。海には流氷、湖は全面結氷。田舎は田舎だが、10万人ちょっとの人口を抱える街はそこそこ栄え、特段の不便を感じない。
ご飯美味しいんでしょう?北海道はいいよねえ。
これまでの人生、方々で言われたが、実際北海道のご飯が特別美味しいとは思わなかった。母の実家は千葉県佐倉市。佐倉のご飯も食べてはいたが、どちらが美味しいとか、あまりわからなかった。
しかし上京後、東京の居酒屋でホッケを注文した時に北海道の偉大さを知った。大きさがまるで違った。脂の乗り方も違った。東京のホッケはイワシ同然のサイズ感に、どうもパサパサした身。チワワとレトリバーを見て、「どっちも同じ犬なのかよ…」と思うのと同様に「どっちも同じホッケなのかよ…」と思った。それくらいに違った。
比べてみたらイケてる海の幸事情を痛感したのが、イクラであった。
世の中では、イクラって高いんですね。
我が家では、伯母が季節になると必ずイクラの醤油漬けを作ってくれて、僕はそのイクラご飯をこよなく愛した。また、父親の友人が漁師で、そこからもイクラの醤油漬けがふんだんに提供されていた。遠慮もせずにイクラを食べまくった。
回転寿司に行って、イクラが2カン250円くらいの列に並んでいたのを見て、なんでこんなにイクラは高いんだろうかと疑問を抱いたことがあった。が、実家にいる限りはほぼ自動的にイクラが湧いてきたため、物事の本質を考えるまで至らなかった。
改めて、上京。百貨店の催しで北海道展なるものがあることを知った。
北海道ってみんな好きって聞いてたけど本当に好きなんだねー。
呑気に眺めている場合じゃなかった。そこで巻き起こるイクラ狂想曲の旋律に戦慄した。
実家では湧いてきて然るべきはずのイクラを求めて、長蛇の列。しかもイクラ高い。イクラはいくら?ってダジャレで小学二年生当時の教室を爆笑の渦に巻き込んだ僕であったが、いくら?って気軽に聞いたら怪我をするような研ぎ澄まされた値段に群がる人々。イクラ、お前こんなに人気だったのか。貪ってごめん、雑に扱ってすまん。
割と数の子とかにも恵まれていた実家の台所事情。魚卵の尊さを知らずに育った僕のカルチャーショックであった。
季節が巡り、今年も伯母からイクラの醤油漬が送られてきた。昨日、必着日と必着時間に合わせて炊き上がったホッカホカのあきたこまちにイクラをかけて食べた。どこぞの物産展でどんなイクラを売っているのか知らないが、伯母のイクラは研ぎ澄まされた値段がついてるイクラよりもきっと美味しい。比べてないが、変な確信がある。イクラ嫌いの母親が伯母のイクラだけは食べられるのだ。相当美味しい。
今日も今日とてイクラを頬張ったが、世間的にはコレステロールが大変なことになるらしい。コレステロールとは何か。僕は知らないが、生命を頂くと上がる数値と考えている。卵の類は即ち、生命と栄養をまるっと食べていることとなる。贅沢甚だしい。
しかし、生きるための身体を頂いているのだ。栄養が不足しているわけなかろう。僕はイクラが好きで、数の子が好きで、ひいてはオムレツ玉子焼きオムライス全部好きだ。
たぶん、コレステロールとは罪の数なのだろう。生命を頂く愚かしさ。それを生々しく突きつけてくれる。
コレステロールがオーバーフローするとどうなるのだろうか。なんとなく血液がドロドロになる気がする。血管が詰まる気がする。
コレステロールの英才教育を受けた身として、捨て身でも生命を頂き続けようと思う。
何しろ、イクラが美味しいのだ。
昨年よりもひとパック多く貰えたイクラ。大切に食べていこうと思う。
にしても美味かった。サンキューおばちゃん。