徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

「川内優輝氏、-17度の中で2時間20分を切って世界記録樹立。」の底知れなさ

このニュースに度肝を抜かれた。

川内優輝、-17度で世界記録! 76度目の2時間20分切り 米仰天「極寒最速ランナー」 | THE ANSWER スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト


要するに、

76度目の2時間20分切りという世界記録を達成したレースが−17度のレースだった。川内とかいう日本人ヤバい。

っつー話。

 

ニュースを形作る情報がどれもぶっ飛んでいる。

-17度の世界を知る人が日本国民にどれだけいるだろうか。

フルマラソンの苦しさを知る人がどれほどいるのだろうか。

その中で、2時間20分を出すことが難しいことを知っている人がどれだけいるか。

ありえないコンディションでのありえない記録。ありえなさが極まりすぎて、荒唐無稽が極まりすぎて、ただのギャグニュースみたいになっている。

さらに拍車をかけるような、川内氏のコメント。

「これまでたくさんマラソンを走ってきて、天気に関して比べるのは難しいけど、一つだけ言えるのは、歴代のマラソンの中で最も寒かったということ」

 そりゃそうだろうな。そりゃ一番寒かったろうな。

書道の達人が技術の極地にたどり着いた末に、

「直線を書くのが、最も難しく、最も奥深い。」

なーんてコメントを残したら、僕らはなるほど…と頷くしかない。

今回の川内氏のコメントは単純な分、そういった類の趣深さすら感じる。

 

で、どれだけすごいのか。以下を見て欲しい。

www.data.jma.go.jp

気象庁がまとめた、世界主要地点の月別平均気温である。

見てみると、−17度とは、中央シベリアのイルクーツクにおける一月の平均気温と同程度の寒さ。寒さ界で言ったら横綱を張れるシベリアの、真冬の気温と同じ。

ちなみに我が故郷である北見市も真冬絶好調時には−25度やら30度になる。したがって僕も−17度の世界を知っているのだが、正直、生命活動を2時間維持するだけで精一杯の寒さである。というか2時間外に放っとかれたら大概死ねる。走るなんてもってのほか。

寒そうだなって思う箱根駅伝復路のスタートでさえ、せいぜい0度とかのものだ。あれよりまだ20度寒い。しかも。20キロ長い。

 

一方のフルマラソン2時間20分を切るとは、どういうことか。

今井正人選手を、ご存知だろうか。

順天堂大学時代に箱根駅伝で山の神として君臨した元祖5区のスペシャリスト。2005年の箱根では、11人抜きかつ区間記録を2分17秒更新。漫画でも描かないような偉業を成し遂げている。

その今井正人選手の初マラソンのタイムが、2時間18分1秒。

山道をゴリゴリ押していける力と、42キロを走破する力は一概に同じとは言えない。だとしてもである。学生トップと謳われたランナーでも、2時間20分を切っていくのは容易ではない。

それを76回やるのも変態だし、ましてシベリアの真冬の空気を切り裂きながらときた。参ってしまう。

 

業界人であればあるほど、そのぶっ飛び具合に衝撃を受けるニュースであろう。短距離しか知らない氏がない選手だったが、書かずにはいられなかった。

川内さんには、暖かいおしるこでも飲んで、栄養とって、ゆっくりして欲しい気持ちである。