徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

RIP SLYMEが好きだったから

そういえばRIP SLYMEが好きだった。

出会いはいつだったろう。そうだ、小学生の頃だ。当時、ゴルフを習っていた。北海道の大地、余りまくった土地には、たくさんのカントリークラブや打ちっ放しがある。男気ある打ちっ放しの社長が毎週土曜日に子供ゴルフ教室を開講してくれていた。我が家の家業が本屋で、打ちっ放しにも本を卸していた事情から付き合いがあり、伯父もよく打ちっ放しに行っていたのも助長して僕はその教室に通い出した。

そこで出会ったのがヒロッチだった。ヒロッチは二個上のお兄さんだった。出会ったのが、僕が小三、彼が小五の時。ゴルフ教室入校初日、ヒロッチが僕に声をかけてくれたのだった。彼はゴルフがうまかった。小学五年生でありながら、多分相当にやれる口だったろう。素人目に見てもゴルフが上手い彼が、初めてやってきた人間に声をかけてくれた。教室終わったら遊びにおいでよと、家にまで招いてくれたのだった。ヒロッチの友達も交えてゲームやったり鬼ごっこをした。初めての人間に対する懐の深さに感激したのを今でもよく覚えている。ゴルフが上手いだけではなかった。優しかった。小学生の頃の年齢差において、二個学年が上だと感性の成熟仕方が全く違う。僕は体が大きかったから、遊びまわったりする分には負けなかった。けど、音楽に関しては全くわからなかった。ヒロッチは大人に見える音楽を聴いていた。Dragon Ashがいいと言って聞かせてくれたけど、よくわからなかった。KICK THE CAN CREWもいいと言われた。やはりわからなかった。僕の中の音楽は学校の授業中に歌う童謡に毛が生えたような曲や、カーステレオから流れるスピッツとサザンが全てだった。

月日が経った。僕は小学五年生に、ヒロッチは中学生になった。ヒロッチは部活に入らずにゴルフを頑張る道を選んだ。僕は二年間打ちっ放しに通ったが、当時のヒロッチよりもだいぶ下手だった。その頃、ヒロッチに勧められたのがRIP SLIMEだった。ちょうど楽園ベイベーが流行った頃である。ようやっと自主的な感性が育ってきた僕は、RIP SLYMEに衝撃を受けた。KICK THE CAN CREWがわからなかった僕は、RIP SLYMEに感嘆した。でも、追うことはなかった。好きなアーティストを一生懸命聴くとか、昔の曲を聴くとかっていう発想がなかったらしい。僕は楽園ベイベーがいい曲だという認識だけを抱えてまたしばらくの月日を過ごす。

その間、ORANGE RANGEに出会い、ミクスチャーロックを知る。大衆がORANGE RANGE向いていることもあり、僕もORANGE RANGEの方を向いた。今でも向き続けている。そしてまた2年。中学生に上がった僕はRIP SLYMEと再会を果たす。そう、グッジョブである。

 

グッジョブ! (初回生産限定盤)(DVD付)

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  • アーティスト: RIP SLYME,RYO-Z,ILMARI,PES,大槻一人,DJ FUMIYA,田中知之
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中学の先輩にCDを貸してもらった。僕はMDにそれを焼いた。

余りにも格好良かった。ベストアルバムなだけはある。全曲キャッチーで、全曲語感が良くて、歌おうと必死に歌詞を追った。CDを返してしまった後、歌詞カードがなかったから一生懸命耳コピした。パワプロ12をやりながら、テレビの音量は消してコンポからグッジョブをかけた。だから今でもRIPSLYMEの曲を聴くと思い出す風景は僕の部屋の窓きわでパワプロのサクセスをやっている風景である。

 

音楽に対する言葉の当て方が、たまらなく好きだ。

www.youtube.com

黄昏サラウンドを乗っけてみる。2:20から始まるRYO-Zのパート。

Hold me tightにDon't be shy
Real love空回るLoneliness
静まり出す喧騒
Sunset beachヘナビゲートYeah
抜け出し二人きり乗る (Highway)
二度とこないOriginalな (Friday)
Night溶けてくTonight the night
君といたいだけWatching you
さぁ まくっちまうぜ
(イージュー)ドライバー気取っちまって
夜風になったらいつだって
流れてくるMy sound

多分、普通に聴いていたら何を言っているのかわかったもんじゃないと思う。シンコペーションを駆使して言葉を単語ごとに区切っていないためである。

例えば、

Hold me tightにDon't be shy
Real love空回るLoneliness

で2小節。

普通に聴いていたら

「ほーみったいとにどんびっっしゃいりるらっからまっわるろんりねす」

としか聴こえない。

Hold me tightにDon't be shy」までで一小節かと思いきや、小節の最後に「Real love」を突っ込む。「リルラッ」としか聴こえないけど、「Real love」である。結果、「Real love」の「love」を次の一拍目に当てていて、「空回る」の「からま」部分で韻を踏んでいる。また、文章のつながりでいえば「Real love空回るLoneliness」で一文なのに、「Real love」をシンコペーションにすることによって文脈をぶっ壊している。言葉が言葉に聞こえないけど心地いい。

これだけギチギチにリズムに言葉を詰め込んだかと思ったら、次の小説の一拍目は歌わない。使わないのである。そして始まるのが、

静まり出す喧騒
Sunset beachヘナビゲートYeah

「しーずまーりだすけんそうさんせっびーちになーびげいっ」だ。

一拍開けて、さらに「しーずまーり」と音を伸ばす。贅沢な拍の使い方をした後に、この部分の白眉である「だすけんそうさんせっ」が現れる。緊張と緩和で笑いが生まれたり、ジェットコースターで恋が芽生えるのと同様に、リズムでも緩急を用いられるとクラッとくる。ここでも「Sunset beachヘナビゲートYeah」が文脈だというのに「Sunset」が前に食っている。

 

全部やってたら疲れるので説明しないけど、とにかくリズムに対する言葉のアプローチが多彩でおしゃれだ。特にRYO-Z。で、黄昏サラウンドにおいてのSUさんパートのように、たいていの曲で転調をする。DJ FUMIYAの仕業である。hip-hopだとループで済ませがちなビートを、転調部分でデフォルメしてくれている。さらに、どう転んだってイケメンなILMARIとどう転んだってサビで主役とるPES。みんなラップが上手くて声が立っていて言葉遊びが上手。時勢もあり、聴いて聴いて虜になった。

 

RIP SLYMEを知ってから2年の年月が経っていた。僕は中一で、その後10年間の付き合いとなる陸上競技に出逢う。それと同時に、ゴルフから足が遠くなった。毎週土曜日のゴルフ教室は部活に塗り替えられ、そこで今でも付き合いのある友人と出会った。代わりに、ヒロッチとは会わなくなった。彼はそのままゴルフを続けていると話では聞いたのだが、僕がめっきり打ちっ放しに行かなくなってしまった。携帯も持っていなかった当時、連絡を取る方法もなく、取る必要もなく、ヒロッチとは疎遠になったまま今日を迎えている。

「アレクサ、RIP SLYMEかけて」

風呂上がりに不意に聴きたくなってAmazon echoに声をかけた。するとechoは賢く、RIP SLYMEのシャッフル再生を始めてくれた。何気ない一言から流れてきた何気ない曲に引きずられて、懐かしい思い出が転がり出てきた。ヒロッチは何しているだろうか。パワプロのデータはまだ残っているだろうか。ヒロッチに会いたいかといえばわからないし、中学生当時の部活とパワプロとウイイレに塗れた生活が恋しいかと言われても、なんともいえない。

ただ、時が隔てた記憶は綺麗だった。

そんなお話。