徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

仙川へ

ごくごく親しくしている友人同士が結婚する。このパターン、実は2組目なのだが、なんというか心のコミット具合でいったら今回の方が大きい。違和感とか、不安定さとか、ぐらついた部分をほとんど感じない、素敵な夫婦である。僕の感性とも大変近いところに2人の感性もあり、個人的にも居心地がとてもいい。

さて、そんな2人が仙川に越した。

仙川とはどこかといえば、調布市と世田谷区の間に設置された駅で、リトル自由が丘と囁かれている場所でもある。街並みがそれは綺麗で整いまくっている割に、惜しくも調布市である。23区を愛撫するかのような立ち位置。愛おしいのか、憎らしいのか、わからない。

そして何より、僕が上京してきて初めて住んだ街だ。

はじめてのおつかいが印象深いものになるように、初めての一人暮らしも印象深い。しかも思春期を脱出して、やっと人格が定まってきた頃に吸った空気、見た景色は、いつまでたっても焼き付いて離れない。思い出がゴロゴロと転がり落ちてくる。部屋決めは母と巡った。吉祥寺の住宅情報屋さんで紹介されて、仙川とかつつじヶ丘あたりに家を定めた。内見に向かう途中に大家さんに電話した時に、大家さんの声色に惹かれた。聞いたら北海道出身であるという。何か縁を感じて、ほぼ迷わず決めた。そこが仙川だった。安い定食屋はなかったけど、落ち着いた雰囲気が全体を包んでいて、まじめに部活に打ち込む人間には大変ふさわしい環境だったように思う。四年。四年は大きい。変わらないようで少しずつ変わって、仙川を出る時には一人で出ていった。

それからさらに四年。

初めて故郷じゃない、故郷になった街へ。

奇遇にも二人の新居は僕の旧居の目と鼻の先にある。いつもの道だった道を歩いて、いつもの二人に、これから会いに行く。