徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

映画「アラジン」を観た感想

みんなが大好きなアニメ映画を僕は見ていないのですが、この度意を決して実写版を観に行きました。アニメとここが違う〜!といった、マスっぽい楽しみ方はではなく、展開も物語のアウトラインも知らない状態でワクワクドキドキしながら圧倒されるという、アラジン視聴者界隈では比較的稀有な楽しみ方ができたと思っています。感じたことを書きます。

 

もしも願いが叶うなら

三つだけ好きな願いが叶えられる魔法のランプとランプの魔人。さて何を願う。シンプルだけど相当考えてしまう。結果、悪の魔法使いジャファーは王になりたい、最強の魔法使いになりたい、最強の存在になりたいと、パワーアンドパワーな願いごとをして、天唾を食らった。

果たして、自分はどうだ。別に権力とかさして興味ないしなぁ、お金があったらいいだろうけどただ口開けてるだけでお金が入ってくるだけじゃ人生面白みもないだろうしなぁ。と、映画見ながら考えた果てに、「努力すると決めたことに対して飽きずに努力し続けられる能力が欲しい」みたいな回りくどい願いをするんだろうなって結論づいた。けど、アラジンは違った。

 

願いは自分のためならず

アラジンの願い事は清かった。何一つ私利私欲のためには使わなかった。洞窟から出る、海の底から抜け出す(ジーニーが代理で願う)、ジーニーを自由にする。自分一人が得をし、助かるために使った願いは一つたりとしてなかった。

金は天下の回り物。情けは人の為ならず。自らのエゴではない、誰かを思った願い事は、巡り巡って自分に返ってくる。世界はそうなっているらしい。アラジンも例に漏れず、街のコソ泥から王族へ。アラビアンドリームである。

しかし、夢物語の裏には歯を食いしばった一人の男がいた。

 

ハキームという名の僕たち

王国の衛兵部隊の隊長、ハキーム。魔法と地位と権力のカクテルである本作において、もっとも人間らしいのがハキームである。とはいえ、一般人ではない。衛兵部隊の隊長なのだから相当出世している。実直に努力したのでしょう。

権力につくか、人間につくか。

ジーニーの魔法によって国王となったジャファーと、ジャファーにより国王の座を追われた前国王。ハキームを諭すのはジャスミン。三者の間で揺れるハキーム。

この判断、この葛藤。

社会は僕たちにたくさんの判断を迫ってくる。一見答えがないものが多い。いや、答えは存在するのだが、情や地位に本質が隠され、答えが見えづらくなっている。

ハキームだって、職務を全うするするだけであればジャファーにつくべきだ。王国の衛兵は国王に従うもの。何も迷うことはない。しかもジャファーは結構まともな政治戦略を立てている。隣国を攻めて自国の繁栄を画策する。隣国がジャスミンの母の故郷であることを除けば、歴史の中で沢山繰り返されてきたであろう、利害を巡った戦争が一つ起こるだけに過ぎない。もちろん、戦争を起こさず、穏健に、自他の利益を求めるのも正解だ。だが、どっちが正しいも間違っているもない。目的はほぼ一致している。手段の問題である。

しかも、揺れるハキームの後ろには、たくさんの衛兵がいる。自分の判断が、何千といる人間の行く先を決めてしまうのだ。感情が導く正解と理性が導く正解がせめぎ合い、そこに責任が降ってかかる。震える。震えてしまう。

子供向けアニメかと思いきや、きっちりおじちゃんたちの琴線もブルンブルン震わせてくるディズニーまじで恐るべし。

現代の苦しさ、寂しさは、ハキームだけではなく別の形を取っても現れる。

 

ジーニーの孤独

最強は寂しい。

どんな願いも叶えられるジーニー。でも自分の願いは叶えられない。魔法も使えて、想像する程度のことならなんでもできてしまう最強なジーニーの願いは、自由になること。魔法が使えなくても最強じゃなくても、自由になりたいと願うジーニーは、やはり寂しい。

ランプの中は狭く暗く、魔法すら使えず、誰かの願いも叶えられない。

「無敵の人」とは、昨今の凶悪事件の犯人を評してよく使われる形容である。捨てるものがない人のことを無敵の人と呼ぶらしい。敵とは誰なのか、何なのか。最強は誰と何と張り合うものなのか。社会か、他人か。

強い・弱いのような関係が、絶対評価でなく誰かと比べた相対評価で為されるとすると、社会との繋がりは大変重要なことである。ジーニーの最強は、魔法にしろ願い事にしろ、オンリーワンかつナンバーワンの最強であった。が、寂しかった。しかし今や、ランプの中同士が繋がれる世界である。最強と最強、無敵と無敵が鍔迫り合いをし、片や勝ち、片や負ける。

ランプの内外で山ほど戦い、敗れた先には何が待つのか。そんな現代にもしジーニーがいたとして、寂しさを感じ得るのだろうか。

 

 

ぐでぐで書いたがヒューマンドラマがどうこう以前に、冒頭からパルクールよろしく街中はちゃめちゃアクション、ジーニーのアラビアンヒップホップ、王子アリ一行入場、ジャスミン歌唱、空飛ぶ絨毯、A whole new worldなどなど、見所満載である。脳みそを止めてみるのもよし、日頃の恨み辛みをトランスさせてみるのもよし。どうしたって楽しめる。

損はしないから皆の衆、興行収入に乗っかるべきである。

以上、感想でした。