徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

昼下がりのカフェの「意識高い系」系について

夜、予定ができたので、早めに待ち合わせ近くにきている。ちょっとした作業をしようと、スタバに入った。新宿の南口である。日曜日の新宿は相変わらず人がゴミのようにいる。無論、僕もゴミである。みんなゴミなので、慄くことなく生きていこうぜ、人間。スタバも相当の人入りで、緑のエプロンが忙しなく踊る。

僕がやろうとしたちょっとした作業は、そこそこ切羽詰まった作業でもあり、さっさと手をつけなければいけない作業でもある。やるぞ、やりきるぞ。強い意志を持ってスタバに入ったのに、混雑の中見つけた席で、隣に座っている男女の会話が面白くて、何もしていない。聞き耳太郎になっている。

あ、立ち上がってしまった。

まぁいい。

かたや、3人目のザ・タッチみたいな風貌の男性。おそらく大学生。学生団体か何かを運営しているらしい。『「意識高い系」系』って感じだ。女性の方は、彼の後輩だろう。ふわっとした雰囲気だけれども、地に足についている印象がある。2人の距離感的に、付き合ってはいない。先輩後輩の間で、悩み相談に乗っている様子であった。

僕が隣に着座した段階で、2人はしばらく話し込んでいるようだった。女性の悩みを受けて、男性がアンサーをひとしきり返し、プラスアルファで思想のタネを披露している段であろうと察した。

男性は雄弁だ。自分の思想を語る人間ほど、雄弁なものはない。価値観・知識の弾丸を矢継ぎ早に発射する。目にも留まらぬ速さで出てくる言葉の礫ではあるが、知識は恐ろしいまで誰かの借り物だ。しかも、「誰か」の固有名詞は登場しない。「福祉関係でめっちゃ有名な人。」とかである。誰やねん。「俺この言葉大好きなんだよねー、福祉関係でめっちゃ有名な人の言葉。」って、君、そんな好きじゃないだろう。大谷翔平のことを大好きな人が、「俺この選手大好きなんだよねー、野球関係でめっちゃ有名な選手。」って言うかね。言わん。でも、女性は、しとしとと彼の話にうなづく。なんとなくわかる気がする…とか、わからないでもない…とか答える。優しい。彼の中に根付いている福祉関係で有名な人の言葉を懸命に汲んでいる。彼は問いかける。「自律って、なんだと思う?」福祉関係でめっちゃ有名な人の言葉の呼び水になる質問だ。得意げな彼と、唐突な質問に戸惑う彼女。彼の質問のスイートスポットを探しながら恐る恐る答える彼女と、「そうだよね、俺も最初はそう思ってたんだけど、違うんだよ。」とスイートスポットをくすぐられ、さらに得意げな彼。女性の手のひらの上で、緑のエプロンよりも華麗なダンスを踊っている。女性の気分が上がってるか下がってるかはわからないが、よくもまぁ、こうも気持ちよく踊らせるものである。あっぱれ。


わずか10分の間だったが、とても面白い会話を聞けた。

僕は今回、着座してすぐ彼に孕んだ一種の虚構感というか、意識高い系感を察知した。あれは何に起因するのだろうか。半笑いの話し方か、ザ・タッチのような風貌か、借り物であろう知識か。

考察をしたい気持ちで一杯だが、作業が喉元に差し迫っているので今は控える。もう一度学生をやるなら、意識高い系の研究をしていきたいなぁ。社会のなんの役にも立たない研究にうつつを抜かしたいなぁ。