徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

吉田拓郎「永遠の嘘をついてくれ」

中島みゆきが拓郎のために書き下ろした曲。「永遠の嘘をついてくれ」。父は、この歌の良さがわからないという。歌詞の意味がいまいちよくわからないという。この、人の自尊心の尊さと情けなさ、言葉にはしない信頼と蔑みを生々しく表現した曲の良さがわからないなんて、人生の150割を棒に振っていると思うので、父に伝える意味も込めて、僕が感じている「永遠の嘘をついてくれ」をつらつら書こうと思う。

 

曲の構造

1番・2番は事例。3番で言わんとしていることの本質に迫っている。永遠の嘘とは。永遠の嘘をついてくれと、永遠の嘘を聞きたいと、願う心とは。

 

1番

ニューヨークは粉雪の中らしい

成田からの便はまだ間に合うだろうか

友達から片っ端に借りまくれば

決して行けない場所ではないだろうニューヨークくらい

なのに永遠の嘘を聞きたくて

今もまだこの街で酔っている

永遠の嘘を聞きたくて

今はまだ二人とも旅の途中だと

永遠の嘘をついてくれ

いつまでもたねあかしをしないでくれ

永遠の嘘をついてくれ

何もかも愛ゆえのことだったと言ってくれ

 

手紙が届いたのか、電話が来たのか。

ニューヨークは粉雪の中という情報だけが唐突に渡される。ここでのポイントは、「ニューヨークは決して行けない場所ではないが、永遠の嘘を聞きたいから行かない」部分にある。

永遠の嘘をついてくれ。

ニューヨークに行かないのは永遠の嘘がそこにあるから。情報は少ないが、よくよく察してみると少しずつ見えてくる。

ここで言う「ニューヨーク」は、事実だとしても、比喩でも構わない。ニューヨークという、なんとなくキラキラした場所を持ち出し、「永遠の嘘」を引き立てている。ニューヨークで頑張っている・生きている様子を聞いたとしても、それが嘘だとわかっていて、ニューヨークには行かない。嘘を永遠の嘘とするために。

事実を相互に確認するのは、自分にとっても相手にとっても辛いことだと知って、嘘を嘘と飲み込み、永遠の嘘にしてしまおうとする。それは優しさだろうか、残酷さだろうか。

 

2番

この国を見限ってやるのは俺の方だと

追われながらほざいた友からの手紙には

上海の裏街で病んでいると

見知らぬ誰かの下手な代筆文字

なのに永遠の嘘をつきたくて

探しには来るなと綴っている

永遠の嘘をつきたくて

今もまだ僕たちは旅の途中だと

君よ永遠の嘘をついてくれ

いつまでもたねあかしをしないでくれ

永遠の嘘をついてくれ

一度は夢を見せてくれた君じゃないか

 

ニューヨークの彼と同一人物だろうか。この国を、日本を見限ると大言壮語を吐いて飛び出した友。久しい連絡として届いた手紙には、友の近況を知らせる代筆文字。

今度、永遠の嘘をつきたいのは友だ。

上海の裏街で病んでいる、そんな惨めな自分を友に見せたくない。探しにきてくれるな。このままのたれ死んだとしても、気丈でいたい。君の前では嘘をついていたい。「僕」も、永遠の嘘を聞いていたい。種明かしをしないでくれ。一度は夢を見せてくれた君の、負けそぼった姿は見たくない。嘘を、ついてくれ。

 

3番

傷ついた獣たちは最後の力で牙をむく

放っておいてくれと最後の力で嘘をつく

嘘をつけ永遠のさよならのかわりに

やりきれない事実のかわりに

たとえ繰り返し何故と尋ねても

振り払え風のようにあざやかに

人はみな 望む答えだけを 聞けるまで尋ね続けてしまうものだから

君よ永遠の嘘をついてくれ いつまでもたねあかしをしないでくれ

永遠の嘘をついてくれ 出会わなければよかった人などないと笑ってくれ

 

君よ永遠の嘘をついてくれ いつまでもたねあかしをしないでくれ

永遠の嘘をついてくれ 出会わなければよかった人などないと笑ってくれ

 

 

まとめだ。

犬や猫が死に目を人に見せないように、人間だって傷ついたときには牙をむいて人を払う。「永遠のさよならのかわりに やりきれない事実のかわりに」、嘘をつく。嘘をつかれる方も、「望む答えだけを聞けるまで尋ね続けてしまう」。

予定調和のような嘘と答えを繰り返し続ける。

 

 

僕自身の話になる、

高校時代、陸上競技でいいところまで行って、夢を見た。大きな夢を語っていた。が、大学の陸上で大きく心と体が折れ、二進も三進も行かなくなった。当時の心境は、本当に、永遠の嘘をついていたい心境だった。同じように地元の旗を掲げて関東に出てきて、うまく行っている奴もいるなかで、自分だけが惨めな思いをしている気がした。地元には、同郷の友人には、今の自分の姿を見せてくれるな。永遠の嘘をつかせてくれ。

今だってそうだ。同期に、同輩に、ちゃんと働いているように見せたいけれど、内心は転覆しそうだったりする。誰も知らない実情を、周りの人に迷惑ばかりかけている実情を、嘘をついて誤魔化す。見にきてくれるな、と思う。

一番情けない部分を永遠の嘘で取り繕う。本当のことなど、風の噂で構わない。僕が知りうる真実は格好の良いままでいてくれ。

 

 

調べ出したら、拓郎やみゆきが活躍し出した当時の世情(学生運動とか)も踏まえた曲のようである。上海は共産主義の比喩だったりするらしい。当時を生きた人間には、より心の奥深くまで突き刺さる曲なのかもしれない。が、我々のような若者にも十分喰らわせるだけの威力はある、強烈な曲である。

心の虚栄に光を当てるのがみゆきは本当にうまい。

以上、でした。