徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

この、行き場のない謝意をどこへ

僕は今の今まで、よくよく目をかけていただいている人と飲んでいた。普段通り、楽しく飲んだ。何一つ普段と変わりない夜であった。蒲田に帰り、徒歩でてくてく歩いて帰る。そこまで酔っ払ってはいない。家路は記憶にある。健やかなそれだ。

家に着いた。鍵を取り出す。ドアの前に立つ。鍵を回す。ガチャガチャやる。どうやっても、ドアが開かない。なぜかわからないが、開かない。

実は今日、母が家に泊まっていた。祖母の三回忌に祭して、北海道から上京していたのだった。僕の出社の後に、母が家を出て、ポストに鍵を入れてもらっていた。

なるほど、母が何かやったに違いない。母に電話をした。その時点午前1時半。深夜である。確実に眠っていたであろう母が電話に出る。

ごめんね、特に変わったことはしていないんだ。ごめんね。

そうか…困った。どれだけ回してもシリンダーはうんともすんとも言わない、ダメだ、今宵は長くなりそうだ。どこかホテルに行くか、向かいの居酒屋に逃げ込むか。どうしよう。ひとまず下に降りよう。エレベーターをおす。

二階です。

二階です。。。

二階です?

ご存知かどうかわからないが、僕の部屋は三階である。

二階の、同じ位置の部屋にシリンダーをガチャガチャしたところで、開くはずがない。ほほう、よかった、三階に上がろう。三階に上がって、自室に問題なく入れてから、じわじわと申し訳なさが込み上げてきている。

 

被害者は二人だ。

母と、下の住人。

母はいい。別にいい。寝入ったところを起こしたのはゴメンナサイだが、ゴメンナサイでしかない。すぐ電話をして事情を話して謝った。

問題は、下の階の住人である。

考えても見ろ。真夜中1時半に突然家のシリンダーをガチャガチャやられるのである。恐怖以外何がある。いや、ない。僕はおそらく耐えられない。そんな罪深き所業を素知らぬ顔で、しかも被害者顔でやってのけたのだ。僕は。

穴があったら入りたいし、入った穴に土でもうっすらかけてほしい。

それほど酔っ払ってはいなかったはずなのになぁ。どうしたものかなぁ。

明日明後日にでも、お詫びのお菓子でもドア前に下げて置こうかと思う。

 

大変、申し訳ございませんでした。