徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

相鉄都心直通記念ムービーについて〜100年の歴史と二つの相鉄〜

横浜に勤めて5年目になる。社会人になって、住まいは変われどずっと横浜で働いている。この先どんな人生を歩んだとしても、きっとこの5年間は思い出になっていくだろうし、横浜の街は幾つ目かの故郷のようになっていくだろう。まさか自分の人生と横浜に、こうまで深いえにしが生まれるとは思っていなかった。これだから人生は面白い。

横浜の駅は大きく西と東に別れる。誰もが思いつく横浜といえば、みなとみらいや中華街だろう。それらは全て東口によって存在する。じゃあ西口って何があるのと言われると、高島屋と相鉄とシェラトンと飲み屋街と家系ラーメン。対外的な横浜は東口に譲っているが、地元としての横浜やその真髄は西口にある。そんな住み分けがなされれている気がする。

例に漏れず僕も西口の方で働いている。

 

西口の看板路線、相鉄が100年の時を経て、都心に直通する。西谷駅から東海道貨物線に接続、新設の羽沢横浜国大駅から東海道本線に連絡していく。新宿まで、相鉄線の車両が届く。

 

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この動画、相鉄都心直通記念ムービーなのだが、もう、めっちゃいい。

音楽はサカナクションの「ネイティブダンサー」とくるりの「ばらの花」のマッシュアップ。僕はこれまでの人生でどっちのアーティストも真剣に聞いて来なかった。本曲も最初は普通に一つの曲として聞いたけれど、マッシュアップと知って別々に聞くとうまく混ざり合っているのがよくわかる。多分サカナクションとくるりの商圏って結構近いところにあるから、元々それぞれのアーティストが好きな人には即効性の毒になることだろう。蝕まれるぞ。

歌っているのは一世風靡したyuiとodolというバンドをやっているらしいミゾベリョウ。yuiしか知らなかった。けど、どちらも曲の趣を削がないいい歌唱である。

ばらの花の転調部分でドラマに転機が訪れるあたり、くるりのめちゃくちゃ展開をうまく使っているようにも見える。

 

さて、ドラマである。

大正・昭和・平成・令和、四つの時代を掛けて巡り合い続ける男女の物語だ。二階堂ふみと染谷翔太。ロケも実際に使われた電車を用いて行われたらしい。

 

四つの時代、幼少期に一緒に撮った写真を男性が落としていく。女性は男性を呼び止めようとするも追いつかない。けれど、少しずつ距離は縮まっていく。最後、令和の時代にようやく男性と女性がコンタクトを取り、相鉄は新宿へと繋がっていく。男女がさも相鉄と新宿のメタファーになって現れているようだ。

でも、この話のポイントは、「幼少期は一緒にいた」ことにあるような気がしている。仮に男女が相鉄と都心・新宿のメタファーだとして、「幼少期に一緒に撮った写真」とはどういうことなのだろうか。

 

相鉄の歴史を紐解いてみる。

相鉄の母体となっているのは、二つの鉄道会社だ。一つは茅ヶ崎や寒川を拠点とする相模鉄道、一つは厚木を拠点とする神中鉄道。どちらの会社も1917年、大正6年に創業された。じりじりと沿線を拡大していく2社は、経営基盤を安定させるため、1943年に相模鉄道が神中鉄道を吸収合併。相模鉄道相模線・相模鉄道神中線と名を変えた。

しかし、時は第二次世界大戦の只中。戦時体制下の特別措置として、相模線が国鉄に召し上げられてしまう。神中線は神中線で厚木飛行場からの貨物輸送で活躍したが、物量に耐えかねて東急電鉄の資本を借りてなんとか存続することとなった。

戦火の離別から、今に至るまで、二つの相鉄線は別々のままだ。当時の相模鉄道は今のJR相模線であり、神中鉄道が相鉄本線。

なんだ、もしかするとあの男女は二つの沿線のことを言っているのではないか。

 

戦時下、相模鉄道が国鉄に召し上げられた理由は、「東海道本線と中央本線のバイパス線としての役割を担わせるため」である。実際にバイパスするのは茅ヶ崎や橋本の方であるが、東海道線も中央線も当然の如く都心・新宿を通過している。

 

新宿を目指した劇中の男性はもしかすると相模鉄道なのかもしれないと思った。

 

二社合併してわずか一年での解体。もしかすると共に都心に進出していく夢を語った頃があったのかもしれない。しかし戦火に巻き込まれ叶わなかった。その夢を、令和の今、叶えようとする相模鉄道と神中鉄道の物語こそ記念ムービーだったのかもしれない。

 

とかなんとか言って、相模鉄道は新宿直通しているわけでもないし、茅ヶ崎で東海道線に乗り換えられるけれど、それ以上でも以下でもない。流石に拡大解釈がすぎるだろうけれど、二つの会社と二人の男女がなんとなくフィードバックしたのは事実だった。

相鉄の歴史にやたら詳しくなった夜。有意義な時間でした。

11月30日、楽しみにしています。おめでとう、相鉄。