徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

音姫について

以前、事務棟のビルのトイレに工事が入った。トイレの新しさや美観が建物の価値に与える影響は大きい。特別古くもないが、綺麗でもないトイレだったので、手をつけたのだろう。必要投資だ。

事務棟の地下には飲食店が入居している。時間がない際にはそこで食事を済ませる。その地下のフロアには男女のトイレが一つずつある。当該フロアにトイレがなくなるのはよくないと管理会社は考えたようで、男女交互に工事を行い、どちらかが男性用トイレが工事中の時は全員が女性用トイレを、女性用トイレが工事中の時は全員が男性用トイレを使用した。賛否はあるだろうが、さして交流人口も多くはないからそのような判断になったのだろう。

 

僕も数回女性用トイレを使用したのだが、そこにはいわゆる音姫が常設されていた。用を足している音を消すために、水を流してから用を足すことが多い現代人。水も貴重な資源だからと、便座に座った段階で水が流れる音を流し、羞恥の軽減を達成しながら資源の無駄遣いを抑制した課題解決のお手本のような仕組みである。

しかしだ、清涼感を彷彿とさせるせせらぎのようでもなく、ただトイレの水を流す音を真似ただけの音である。いかにも、私トイレ入ってます!みたいなあの音、どうにかならないものかと思った。

 

そもそもの課題は用を足す音をかき消すことである。便座の構造上、たまたま水を流した時に大きな音が出るから、皆こぞって水を流していたのだ。水を流して音をかき消したい人が沢山いたわけではない。

そう考えると、あの独特な水が流れる音でなくてもいい。

例えば、LINEミュージックみたいに便座に座ったら好きな曲が流れるようにしたらどうか。今で言うKing Gnuや髭男がそこかしこで流れるわけだ。あの個室めちゃハイセンス!みたいなことも出てくるかもしれない。でもなんとなく空間として音がごちゃごちゃする気もする。じゃあヘッドホンを置いておくとかどうだろう。聞こえるから嫌なのだ。互いに耳元から音を遮れば聞こえることもない。最早トイレに何かBGMでもかけておけばいい。それで解決する。

 

乙姫とかけて上手いこと言った系の商品名だが、音姫から流れる音は、姫と称するにはあまりにも悲しいものだった。なんかもう一捻りできないものかねと、北へ向かう飛行機のなか、考える。

ふるさとは-16度の雪景色。雪が遮音材になって、しんと静まる北見だ。音のことを考えることは少し野暮かもしれない。