徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

経済は止まれど、血液は止まらない

世は大変なことになっている。泣く子も黙る新型コロナウイルス。自粛に次ぐ自粛。人を集めるな、人と交わるな、会社に来るな、すぐ帰れ。関白宣言を歌い上げた頃のさだまさしを彷彿とさせる戒厳令が政府より敷かれ、諸企業は素直に従い、ものの見事に日本経済は急ブレーキがかけられている。全ては流行の肺炎の拡大防止と早期収束を目して。

僕の勤める企業も類にもれず自粛の波をモロにくらっている。自営業だったらどうやって飯食っていけばいいのかわからないレベルの不況である。幸か不幸か経営状況がよく見える職務にいるため、この切迫した自体がより身に染みて感じられる。子供の頃青空の下で転倒して、保健室でマキロンを染み込ませたガーゼを当てられたあの痛みはこのようなものだったろうか。今の痛みの方が余程鈍くて、目に見えず、ただ、ゆっくりと首を締められているような苦しさを伴っている。流れていることが普通の人と物と金が止まる恐怖である。

 

という、このご時世に僕は人生初の献血に行ってきた。

理由は二つ。

 

一つは、先日AGAのクリニックに行ってきたことだ。

薄毛はAGA!と謳われて久しい。爆笑問題が出ているCMが有名だろう。僕の家系的には、、、というか、父と伯父は少なくとも70歳前後になるまで髪の毛はある。いとこなどを見渡してみてもひとまずは大丈夫そうなのだが、どうも個人的にはここ最近生え際の髪の毛が細くなってきている気がしてならなかった。傍目には全くわからないレベルで。ただ、日々雨ざらしのストレスと躱せたり躱せなかったりする板挟みにより、人並みの心労はある。頭をよぎったのは祖母の方の血である。祖母の家系はものの見事に髪の毛が薄い。もし、奇跡のくじ運でそこの遺伝子を引いていたら。もし、日々の格闘により男性ホルモンがダバダバ出て、遺伝子が目覚めてしまっていたら。そんな恐怖に駆られて、AGAクリニックに行った。早め早めの措置である。

で、簡単な薬を処方してもらった訳であるが、そこで聞いたことによると、血液内に薬が回っている状態では献血ができなくなるとのことだった。女性の身体にはよくない作用を及ぼす成分が含有されているらしい。

はたと思った。

今まで一回も献血したことないや、、、髪の毛の保持と社会貢献を天秤にかけて、僕は髪の毛をとる人間だったろうか、、、私利私欲のために生きよなど、誰にも教わっちゃないなぁ。。。

というのが一つ。

 

二つ目は、この停滞した経済である。

いくらなんでも停滞がすぎるだろうと。普段流れているものが止まるということがどれほど恐ろしいものかを初めて思い知らされている。倒産した旅館があるだとか、株価がフリーフォールしているとか、明るい話は城島茂の第一子誕生くらいなものだ。ふざけるな、我々の身体の中には巡り巡る、流れ流れる血液があるではないか。今こそ、お金という社会の血液が止まっている時こそ、体内の血液にフォーカスしてやろう。どれくらい流れているのだろう。どの程度の血液が、休むことなく僕を生かしているのだろう。見てやりたい、この目で血潮を見てやりたい。

この興味、この情熱が、一つ。

 

気がついたら僕は野暮用を済ませた後に有楽町の献血ルームにいた。コロナウイルスの影響で献血に訪れる人が減少しているらしい。献血ルームのお姉さんたちにえらく感謝されたが、僕はAGAがらみの人生経験の蓄積と新型コロナに狼狽する社会へのレジスタンス精神を掲げての献血でしかなかった。行動を呼び起こす哲学はなんだっていい、結果が大事である。

400mlの全血献血。人生始まってこの方、体内からそれだけ大量の血液を抜かれることはなかったので多少不安はあったのだが、日頃毎日2リットルの水をグビグビ飲んでいる効能だろうか、何一つくらっとすることなくすんなり献血が終了した。どうやら大変にいい血管をしているらしい。今後とも献血にご協力をお願いしますと念を押され帰ってきた。たくさんジュースを飲み、お菓子をいただき、アイスクリームをも平らげた。この撒き餌の如く手厚い福利厚生に惹かれて献血を行う人もあるようだが、個人的にはそこまで心に響かなかった。それより、400mlの献血がわずか10分で終わり、体調になんら変化が起こっていない事実に感動した。案外人体は丈夫だし、血液は抜かれても動けるように身体は作られているらしい。

 

血が抜かれても問題がないなら、経済の停滞も問題ないのではなんていう簡単なロジックが通用する訳はない。なんなら、血が詰まっているのが今の経済の停滞だろう。血栓ができて、詰まったら一大事である。

でも僕は元気だった。多少生え際が薄くなっている気はする程度のもので、なんのことはない元気な身体である。何があろうと、自分である。世界がどんなに平和でも、熱にうなされれば辛く苦しい。

少なくとも、僕は、私は、あなたは。元気でいたいものですね。一生懸命血液を作るよう頑張ります。