徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

初恋クレイジー

スピッツの何枚目だかのアルバム、インディゴ地平線。
CDからモンスターを再生するという画期的なゲーム、モンスターファームで強いモンスターが出るからってひどく不純な動機でお母さんにせがんで買ってもらったアルバム。母は母でスピッツ好きだったから快く買ってくれた。
アルバムの中身としては、チェリー、渚の2枚の大ヒットシングルが収録されている。スピッツ全盛のころのアルバムだ。モンスターが出なくても非常に完成度の高いアルバムである。その2曲目、初恋クレイジー。こいつがいい曲なんだな。メロディーの綺麗さが群を抜いている。シンプルなピアノのイントロからAメロ、サビ、A'メロ、サビ、間奏、Bメロ、サビ。なんでもない構造だが、全く無駄がない。耳あたりの良いメロディーを書かせたらスピッツはすごい。それがよくわかる。


Spitz LIVE 初恋クレイジー - YouTube

 
そして歌詞だ。
スピッツの曲全般で言えるのが、綺麗なメロディーに乗せてなんのこっちゃわからないことを歌っているってことだ。特に初期のころの曲の歌詞なんてシュールそのもので、ロビンソン辺りでもAメロとかよく聞いたら辻褄なんて合わない。語感とメロディーがいいからごまかせちゃってるけど。
初恋クレイジーに関してもわかるようなわからないような表現が多い。しかしこのころの曲にしたら圧倒的に読み解きやすい。初恋で狂っちゃってる、愚か者になっちゃってる様が絶妙に見て取れる。精査する。
 
Aメロ
見慣れたはずの街並みも
ド派手に映す愚か者
君のせいで大きくなった未来
夢の世界と裏腹の
苦し紛れ独り言も
忘れられたアイスのように溶けた
 
初恋だ。ヘタレの初恋そのものだ。
なんでもない景色も街並みも君のせいでもうウキウキロケーションになっちゃって仕方ない。しかし、まぁ片思いなわけで、夢の世界では気軽かつイケメンにカッコイイこと話しかけるのに結局そんな気の利いたことは言えず、ボソボソと君に宛てて話してみるけど虚空に溶けて消えていく。
なんなんだと思う。なに一つ難しい言葉を使わず、なに一つ核心を突かずに核心を突くこの感じ。
 
サビ
誰彼隙間を抜けて
おかしな秘密の場所へ
君と行くのさ 迷わずに
言葉に出来ない気持ち
ひたすら伝える力
表の意味を越えてやる それだけで
 
マサムネの曲を聞くにあたって押さえておきたい知識として、彼が使う、おかしなとか秘密のとか魔法のとか遊びとかって言葉は大体エロで解釈していい。本人もエロと死のことしか歌詞にしないみたいなことをはるか昔に言っている。
つまりだ、あらゆる障壁を越えて君とほわほわしたいんだな。イチャイチャの果てまで落っこちたいんだ。なーんてこと言葉に出来ないけど表の意味を超える裏の意味、つまり下心を燃え滾らして今日もフルパワー!そういうサビです。きっとそうです。
酷く下世話だけど青春思春期の少年なんてみんなそんなもんだし、30手前の草野マサムネなんてそんなもんだ。たまらんのう。
 
二番
軽いベーゼで満たされて
遠吠えしてた常日頃
違う四季はあっという間に過ぎて
このベーゼもほんとにベーゼしているのか甚だ怪しい。どっちにしろ遠吠えしているからセクシャルにフル回転していることは間違いない。そうして四季はあっという間に回る。恋なんてそんなもんだ。確かそうだ。日々ウキウキだものね、そりゃああっという間に過ぎますよ。密度密度。
 
サビ
心のプロペラ回す
ばかげた秘密の場所へ
約束だよね 2人きり
優しくなれない時も
優しくされない時も
隠れた空は青いだろう 今のまま
前半部分は一番と同じようなこと言っていると思うんだ。後半の、優しく…の件がきっとマサムネ一番言いたかったことなんじゃないかと思う。ここだけがほかの部分と毛色が違う。なんか真面目だ。違和感がある。暗喩暗喩の塗ったくりのなか突然の優しく…である。二人がどうなろうと空は青いままだよ。なかよしだよ。である。そこにエロの介在はない。至って真顔。真意が見え隠れする。
 
間奏ではマサムネのハーモニカが鳴る。曲の雰囲気とよく合ってよろしい。
 
Bメロ

泣き虫になる 嘘つきになる 星に願ってる

例えば僕が戻れないほどに壊れていても

 

さっきのサビで真意を語った後のBメロは転調する。シュール時代のスピッツの常とう手段。突然雰囲気変わった音像と共に初恋あるあるが並び、とどめの「例えば僕が戻れないほどに壊れていても」。男の恋心の未練たらたらさを的確に表現している一文だ。秀逸すぎて何も言えない。

のち、サビを繰り返し、明るいオーソドックスなピアノのイントロで始まった曲は、マイナーで終わりを迎える。最後まで含みを持たせている。

 

歌詞の痒いところに手が届く感覚が何しろいい。スピッツシャッフルするときは大体この曲から始める。そしてもうこの曲の出番がないことに気付いてしばらくしてからもう一回手動でこの曲を流す。虜です。恋がしたいです。