徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

久しぶりに惨めな思いで涙を流した

保育園の頃、遊び道具を奪い取られて泣いたのをよく覚えている。幼稚園に行っても、いじわるされて泣いた。小学生の頃は、友達に帽子を隠されて泣いた。気の強くない性格からか、身体は大きいのにいじめられっ子気質であったらしい。子供の頃は随分と惨めな気持ちになったし、悔しくてよく泣いたものだ。

高校、大学と進学するにつれ、惨めな思いになることは少なくなった。周りも大人になるし、僕も大人になる。勉強をして選んだ学校や、就職活動で掴み取った企業には、それなりに精査された人間しかいないのかもしれない。歳を追うごとに、悔しさと惨めさのハイブリッド涙を流すこともなくなっていった。


しかし今日、耐え難い出来事があったので、此処に書き記す。

日々僕は弁当を作っている。朝の時間を差っ引いてのクッキングタイムである。休日に買い込んだ野菜を炒め、弁当に詰めて会社に行く。社員食堂には電子レンジがあり、チンすることでホカホカに温まった弁当を毎日食べられる。

今日も僕はレンジの前に立った。空腹とレンジの待ち時間ほど相性の悪いものはない。だからレンジの前では嫌にやきもきするし、レンジに入れる動作もテキパキになる。ちゃっちゃっちゃっと弁当を出し、温めようとレンジの中に入れた。

つもりだった。

レンジの淵に中途半端に置かれた弁当箱はバランスを崩し、体操内村も唖然とするであろう美しいコールマンを演りながら落下。内容物は花火のように床に飛び散った。僕の手塩にかけた魚肉ソーセージとピーマン、舞茸の炒め物は即座に食べられる代物ではなくなったのだった。

怪訝な目の周囲。レンジに並ぶ行列。

僕は食堂の厨房に走り、布巾を貰った。すみません、すぐ片付けますから…昼時を少し過ぎてもなお人で溢れかえる社員食堂の中、1人四つん這いになり散った弁当を片付ける青年。ごめんなさい、迷惑かけて…すみません。本当にすぐ片付けます。うわごとのように繰り返しながら飛び散った弁当を片付け、レンジを立ち去った。

恥ずかしさと哀しさが足され、混ざり合い、惨めさとなって僕の心に黒い点を残した。黒い点を見つめれば見つめるほど、体内で地震のような揺れが起こり、それが涙腺を揺らした。景色が潤んだ。定食を買おう。定食を久々に食べよう。気分を定食に持っていけばいくほど、惨めさの黒い点が目についた。

誰に転嫁もできはしない哀しさ。自業自得の渦の中で溺れる姿を、不特定多数に見られる恥ずかしさ。

豚肉のバターチキン炒め定食には味がなかった。


今度からは慎重にレンジでチンします。