徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

卵卵ララ卵卵卵 卵卵ララ卵

湿度98パーセント。白ごま色の雲が圧力鍋の蓋のように天に覆い被さり、湿気の逃げ道を塞ぐとともに更なる湿気をもたらしてくれている素敵な土曜日。口元を湿った布で押さえつけられたような息苦しさとともに目覚めた僕は、不快指数の魔の手によって眠りの淵から引き摺り出され、ジトジトの身体を布団からひっぺ返さざるを得なかった。なかなか苦しい目覚めだった。

さて、かくして一日を滑り出した僕である。本日は休業日であり、全くもって誰と会うわけでも何に追われるわけでもない一日としようと決めていた。そうした日がないと苦しくなる質である。とりあえず飯でも食って掃除と洗濯をキメて、先日Amazonから取り寄せた本の着荷を待ちながら、溜まった本を消化するべくいそいそと活字を追いかけていた。途中、洗濯物を干した。今も窓際に棚引いているが、よく考えたら湿度98パーセントである。乾くのだろうか。

正午前に荷物を受け取る。真の意味での自由を得たので、動き出すこととした。何かにつけて払い損ねていた公共料金の類を清算し、日々の弁当作りによってジリジリと減って行く肉や野菜の類の補給した後に、多汗症一歩手前疑惑が浮上している昨今の汗腺事情により汗を吸いまくってこの世の終わりのような香りを漂わせているシャツの類をクリーニングに出した。大学時代からの愛車、ラグジュアリー極まりない10,000円のママチャリが足となってくれた。

払込はいいとして、買い出しというのが僕の生活において非常に重要である。朝昼を自前で用意するコストパフォーマンスの良さを一度知ってしまうと、昼ごはんにお金を払おうなんて気が全くなくなってしまう。そのためなんとしても弁当の具材は切らしてはならない。最悪鶏むね肉と卵さえあれば親子丼ができるということで、我が家の買い出しについては鶏むねと卵が不動の必須要件となっている。鶏むねは価格が安定しており、2キロ780円が近辺では最安。比較的価格変動の大きい卵については、どんなに冷蔵庫の中に溢れていたとしても安ければ必ず買うようにしている。どうせなくなっていく自信があるからだ。

本日もスーパーと八百屋に顔を出したところ、なんと卵が10個パック98円で売られていた。チロルチョコが5円で売られているくらいのお得感である。8個は余っているほぼ手付かずの卵パックを視認してはいたものの、この安値を逃したら男が廃ると、即買い物かごに入れた。もちろん鶏胸肉も買い、ついでに牛乳も買った。まぁ、いわゆるいつもの買い出し風景である。

買い出しも終わり、愛車のかごにレジ袋を突っ込んで、揚々とクリーニング屋まで駆けた。やはり湿度98パーセントは伊達じゃなく、水滴の中を突っ込んで行っているかのような湿り気具合だ。なんならポツポツと雨粒が落下してきている。よぎったのは愛しの洗濯物たち。18日間連続雨天の東京だ。せっかく洗った彼らをむざむざ濡らすことはできない。気が急いた。そんな中、クリーニング屋に滑り込む。

馴染みのおばちゃんが店頭にいるのが見えたため、さっと愛車を停めてクリーニング屋に入ろうとした。愚かだったのは、レジ袋を横着して降ろさなかったことと重いレジ袋を入れたカゴを何にも寄りかけなかったことである。音がしたと思って振り返った時には愛車は卒倒しており、かごからは激安鶏卵が炸裂、傍には牛乳パックがガウディの建築物のように変形して横たわっていた。幸い、往来の少ない通りだったため、僕は盛大に彼らを悼むことができた。卵…卵…とうわ言のように呟きながら卵パックを労わる大男。ホラーである。

すぐさまクリーニング屋のおばちゃんに報告をした。「かくかくしかじか僕は鶏卵を殺傷してしまった。何か手立てはなかろうか。」「割れた直後なら卵焼きにでもすればいいじゃないの。」金言であった。

過去、僕は同じような過ちをしている。その時はレジ袋が裂けているのを知らずに愛車のカゴから引っこ抜き、卵を飛び散らせた。その時は泣く泣く処分したのであった。が、どうやら割れた直後ならいくらでも仕末の使用があるらしい。確かにそうだ。調理するためにちょっとワイルドに割ったと思えばいいのだ。おばちゃんに伏して感謝し、颯爽と愛車を走らせて家に帰った。愛車のかごはサルバドールダリの時計のようにとろけた姿となっていた。

家に着き、目下炸裂している卵をボウルに移し替える。10個全て天に召されたかと思いきや、5個は生きていた。臆面が微塵もないままにぶっ倒れた愛車だったが、卵って意外と強いらしい。卵パックが優秀なのか。さておき、やはり召されてしまっていた5個を猛烈にかき混ぜ卵焼きを作った。転んだってタダでは起きない。倒れた先にあった草をも引っ掴んで商売していくのが商人である。割れた卵も使いようだ。美味しくなれ、美味しくなれ。死の淵から生き返ると強くなるサイヤ人をむくむくと想像しながら、醤油に出汁に砂糖にとフルチューンしていく。

そうしてできたのが以下の卵焼きであった。

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実に美味だった。卵5個分。コレステロールが云々と言われるかもしれないが、知ったこっちゃない。弔い合戦なのだ。昨日の金曜ロードーショーがサマーウォーズであったことも影響したかもしれない。ここまで気持ちの入った卵焼きを作ったのは初めてだった。

サンキューおばちゃん。

いい昼下がりが訪れそうである。