徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

集合住宅ネーミング〜荘とハイツとカーサの覇権争いについて〜

集合住宅。それは学生にしろ社会人にしろ、一人で生活を営む我々の拠り所である。

大学に入学するため上京した18の春。僕は初めて集合住宅の門を叩いた。御歳85を超える大家さんが同郷で、大変よくしてもらった。

そのアパートの名前には、「ハイツ」が付いていた。

「〇〇ハイツ」というアパートは非常に多い印象を受ける。アパート界の佐藤さんであり、田中さんである。

ちょっと時代を遡ってみたらどうだろう。

ちょうど40年とちょっと前、僕の父親も大学入学を機に上京している。江古田のあたりにあったという集合住宅に身を寄せていたらしい。

父の話を思い返すと、確かその建屋には、「荘」とあった。

荘。「〇〇荘」。なんとも古めかしい響きである。そこはかとなく、共同トイレ・共同浴場のかほりがする。隙間風がひゅうひゅう入ってくる建屋。虫はオールシーズンでウロウロとほっつき歩き、梅雨の季節になるとトタン屋根は室内に小気味のいい雨の音を伝える。季節は、春。川沿いに建てられたその建物の窓を開けると河川敷が広がっており、桜に縁取られた水面が光る。錆びた物干し竿に洗濯物を棚引かせていたのに、不意に落下していく。散り始めの桜の花と一緒に流れて、気付いた時にはもう見えなくなってしまう。隣人のくしゃみが聞こえた。花粉症なのだろうか。傍でかけているFMラジオでは今年のスギ花粉は例年よりも強烈だと伝えるニュースが流れている。北海道から出てきた僕は、花粉症の辛さを知らない。春はただ気持ちの良い季節だと思っていたが、本州の連中にとってはそうではないようだった。何しろ隣人のくしゃみはとどまることを知らない。あの人のくしゃみが止まったら買い物にでも行こう。昼前の日差しを受けながら、隙間風に震える埃を眺めていた。

なんか、荘ってこんな感じ。

しかし最近、飛ぶ鳥を落とす勢いで破竹ってるネーミングがある。

「カーサ」である。

「casa」イタリア・スペインあたりのラテン語圏で、家の意味を持つ。

ここ10年以内にできた鉄筋コンクリートでオートロック、24時間ゴミ出しOK、マンションとアパートの狭間を揺蕩っているような集合住宅の名前にoftenな感じで名付けられている「casa」や「カーサ」。洒落てやがる。

どことなく、荘→ハイツ→カーサの順で覇権が渡されてきている印象を受けるが、どうなのだろうか。

 

HOME'Sに力を借りた。

https://www.homes.co.jp

 

荘・ハイツ・カーサ(casa)の登録住居数を、指定なし・築30年以内・築20年以内・築10年以内・新築で調べて、各年代の物件数を出してみる。

以下が、全国版それぞれの物件数である。

 

総数

築30年以上

築30年〜20年

築20年〜10年

築10年〜1年

新築

8558

6760

944

492

323

39

ハイツ

71340

25032

31887

9408

4140

873

カーサ

7724

653

1868

2019

2656

528

一部、地名やバス停名で「荘・ハイツ」が使われているところがあった。でも、弾ききれなかったから諦めた。あと、物件数だから、建物の数じゃない。同建物の別部屋もダブルカウントされてるだろうけど、そういう条件含めてスタートラインとしてしまう。ご愛嬌。

とりあえずなんだ、ハイツ多い。

 

もうひと押しして、前10年間からの対比を出してみる。

 

築30年以上

築30〜20年

前10年比(%)

築20〜10年

前10年比(%)

築10〜1年

前10年比(%)

新築

前10年比(%)

6760

944

13.96

492

52.12

323

65.65

39

12.07

ハイツ

25032

31887

127.38

9408

29.50

4140

44.01

873

21.09

カーサ

653

1868

286.06

2019

108.08

2656

131.55

528

19.88

ついでにわかりやすく

 

築30年以上

築30〜20年

増減率(%)

築20〜10年

増減率(%)

築10〜1年

増減率(%)

新築

増減率(%)

6760

944

-86.04

492

-47.88

323

-34.35

39

-87.93

ハイツ

25032

31887

27.38

9408

-70.50

4140

-55.99

873

-78.91

カーサ

653

1868

186.06

2019

8.08

2656

31.55

528

-80.12

まず特筆すべきは「荘」の凋落。

総数が8558件のうち、6760件が築30年以上。平成30年である。昭和ネーミングis荘とでもいうべきか。何しろ平成に入った途端に前比で86%も数字を落としている。平成一桁、新築の荘は絶滅危惧種となった。

対して、バブルのような推移をしているのが「ハイツ」。

築30年〜20年までは数を伸ばしている。同い年くらいのハイツが多いらしい。ゆとり世代はハイツ世代だった。しかし、平成も二桁に入ったころに竣工した築20年〜10年の物件をみると大きく数を減らしている。前年比で70%の赤。ハイツはめちゃ内部留保してるから経営が揺らぐことはなさそうだけれど、迅速な業態革新が求められそうな趨勢。

時代に苦戦する両者を横目に、爆進するは「カーサ」。

築30年以上の件数は圧倒的に少ないものの、平成に入ってから順調に数を伸ばし、総数でも昭和の雄「荘」に迫る勢いである。ここまで硬く前年比を取っていけるのはすごい。力がある。

 

現時点では勢いがあるカーサ。

多分その勢いもいつかは陰る。盛者必衰、栄枯盛衰だ。

各国の単語で「家」を調べてみたのだけれど、アイルランド語の「チャッハ」とかスワヒリ語の「ニュムバ」とかめっちゃ可愛い。

不動産屋とかで、「この物件この間空いたばっかりなんですけど凄くオススメなんですよぉ〜〜。チャッハ自由が丘。」みたいな会話したい。住所欄に「ニュムバ後藤」みたいなアパート名書きたい。なんとなく、自分で建てるしかない気がするけども。

 

調べ出してから、「メゾン」とか、そもそもの「ハウス」とか、まだまだメジャーどころが控えていることに気づいたけど、もうそこまで広げる元気はなかった。というか、「ハウス」とかあらゆる物件が引っかかってきちゃって絞り込みようない。

なんかうまい検索方法はないものだろうかと考える休日。

僕は何に情熱を燃やしていたのだろうか。