徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

センサー式の蛇口のスイートスポットについて

最近蛇口をひねることがなくなった。センサータイプがあらゆる公共のトイレに整備されてきたためだ。蛇口ないしはノブをひねって水を出すのは家でだけ。そんなライフスタイルが当たり前になりつつある。蛇口をひねらずに水を出し、センサーで石鹸が出てきて、ジェットタオルで手を乾かす。すべてが赤外線で管理されている最近の手洗いはすごい。何にも触れることなく一連の動作を完結してしまうのだ。抜群の衛生管理。一昔前の人が見たらまるで魔法かなにかを使っているようにしか見えないだろう。

行く先々でトイレに入ってきた。尿意と便意は全く僕のコントロールを超えたところから降ってきて、「トイレに入ってよ、トイレに入ってよ。」とせがむ。仕方ないなぁとトイレに入る。用を足して、手を洗う。もちろん蛇口はセンサー式。手をかざす。

この瞬間である。果たして何人の人間がすんなりと水を出すことができるのだろうか。センサーのスイートスポットを、初見で当てることができるセンサーの申し子が世の中にどれだけいるというのだろうか。

僕は数々の蛇口と付き合ってきた。「ここ?ここかな?もうちょっと奥?近く?どこがいいの?」と、無機物の急先鋒である蛇口とイチャイチャし続けてきた。目を隠して僕と蛇口とのやり取りを鑑賞したらきっとそれは恋人同士の営みにしか見えないだろう。心なしか蛇口の造形がいやらしく思えてくる。ひとしきりイチャイチャしつくして、やっとこさスイートスポットを見つけたと思ったらすぐに水が止まり、おかしいなと思って手をいろいろな位置に動かしても出てこず、手を一回引っ込めて再びかざしてみる行為を続けているうちに、どじょうすくいみたいになって楽しくなっちゃう。ふと我に返って、なにやってんだろって虚しくなる。そんなエブリデイ。

会社でよく使うトイレってのは大体決まっていて、そこの蛇口のスイートスポットは流石に長い付き合いなので完全に把握しているつもりである。妻みたいなものだから。でも、たまに違うトイレに行って別の蛇口に浮気をするとその子は全く違う場所で反応するもんだから困ったものである。そう、蛇口にも個人差…いや、個口差があるのだ。手前がいい蛇口、奥がいい蛇口、近づければ近づけるほど反応する蛇口、ちょっと離すくらいがちょうどいい蛇口。みんな違ってみんないい。誰がどうとは言えない。

隣で新参者が僕の配偶蛇と一悶着繰り広げている。心のなかでアドバイスをする。そこじゃないよ、もうちょっと左側だよ。もっと近づけなきゃわかってくれないよ。少し微笑んで僕は側室的な存在の蛇口のスイートスポットを巧みに突き止めて水を出し、颯爽とトイレを後にするのだ。

俺もあんな時期があったな…なんてほくそ笑みながら。

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