万象を繰り合わせても見に行こうという映画が出てきましたね。
僕はボヘミアンラプソディーを観に行っていない非国民ないしは非人類なのですが、この度のエルトンジョンの映画については、仮に東京都が水没しようと、「今から…晴れるよ」的マインドを高らかに掲げて観に行こうと思うわけです。ちなみに、天気の子も観ていません。
誰も興味のない話を書く。
エルトンジョンなる人は僕にポップスピアノの楽しさを教えてくれた偉大な存在なのである。バッハのインベンションだとか、ツェルニーの30番だとか、バロックと練習曲の山に埋もれたピアノの楽しさを洗い出してくれた恩人なのである。彼がいなければ、今のように音楽が末長い趣味になっていなかったかもしれない。
出会いは古い。
我が家に、洋楽で英語を覚えよう!といった趣旨の本があった。おそらく、僕が生まれる前に父か母が買ったものだ。10曲くらい収録されたCDが付属されており、曲を聴きながら詩を読んで、表現やら単語やらを覚えましょうね、なお、原曲は歌手のクセが強いので、歌は別途プロのシンガーが発音などを矯正したものになっています。とかなんかそういうやつである。
イマジンとかデスペラードとか洋楽スタンダードのラインナップの中に、エルトンジョンのダニエルが紛れ込んでいた。
よくもまぁ曲名に人の名前をつけたものだな、日本で言ったら「太郎」みたいな話だよな。と幼心に思っていた。よく憶えている。その英語の本もよく読んだし、CDも幾度となく聴いた。曲が鮮烈に焼き付いているわけでなくとも、エルトンジョンの名前は頭の片隅に残っていた。
小学生に上がると、男の子がピアノを習っているのをおちょくるやつらが出て来る。僕も例に漏れずおちょくられ、それを拒み、ピアノを習っていながらひた隠す日々が続いた。ピアノは足枷だった。
そこに手を差し伸べたのが、ビートルズであり、エルトンジョンであり、ビリージョエルだった。男の人がピアノを歌いながら弾くのは格好いいのだ。生きる道が見つかった気分だった。
中学一年の頃だろうか、エルトンジョンのベストアルバムを買った。二枚組のグレイテスト・ヒッツ。
- アーティスト: エルトン・ジョン,ブルー,バーニー・トーピン
- 出版社/メーカー: ユニバーサルミュージック
- 発売日: 2003/02/05
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僕はここで初めて本物のダニエルを聴くこととなった。どこぞの名もなきシンガーがきちっと発音したダニエルではなく、エルトンジョンのダニエルだ。
Daniel you are star.
である。
ベトナム戦争で散ったレッドテールライトも星のように見えたのだろう。
エルトンジョンの少しかすれた声と、メロトロンの音。本物のダニエルは本物のダニエル然としていた。どうでもいいけど、ベトナム戦争が奪ったものも多いが、ベトナム戦争がもたらした情緒があるのかと思うと複雑な気持ちになる。PPMだって、ウッドストックだって、ダニエルだって、ベトナム戦争がなければ生まれ得なかった話なのだ。ほんと、どうでもいいけど。
ところで、エルトンジョンの曲は非常に難しい。ビートルズなんてI love you. I want you.だけ歌えればぶっちゃけなんとかなるが、エルトンジョンはそうはいかない。何を歌っているのか聞き取れないし、歌詞を見てもきちっと追っていけないし、歌えない。
バーニートーピンの仕業である。エルトンジョンの曲は全て歌詞が先に作られている。グレイテスト・ヒッツのライターノーツに書いてあった。歌詞先行の歌は、字余りになりがちだ。そして英詞のプロが書いている詩であるそう簡単には歌えないし意味も捉えられない。
ビートルズは歌えたけど、エルトンジョンは歌えない。でも、ピアノで弾きたい。僕は雰囲気を捉えることに徹した。コードを掴んで、アクセントを捉え、メロディを唸っていればなんとなくそれらしく聴こえてくる。
ロケットマンがいい例だ。
表拍と裏拍にアクセントが散りばめられ、適当な部分でオクターブ上の飾りをつける。これはどのポップスにも通づる弾き方だ。童謡だって演歌だって、アクセント配分次第でポップスになっていく。コードをバラす、アクセントをつける。コードをバラす、アクセントをつける。エルトンジョンの弾き方をたくさん真似して、僕はポップスを覚えた。
どんなポップスでもある程度コードがあれば弾けるようになったのはエルトンジョンのおかげで、ひいては、今の人生の彩りがあるのもエルトンジョンのおかげだ。エルトンジョンを必死に真似したから、真似したいと思うエルトンジョンを知ったから、僕は今曲を作り、曲を弾いていられるのだ。感謝しても仕切れない。
「今でもとても歌えないエルトンジョンの曲だけど、映画館で唸りながら観たいと思う。8月23日、Rock it manに会いにいくぞ。