徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

ロンリーアルマジロ

部屋が寒い。寒いというのは非常に人間の生命活動を低下させるものらしい。気持ちからして滅入ってくる。

今はエアコンなんて便利なものがあるのだけれど、午前中の日の高いうちからフル稼働にしているのは、なんとなく損している気がして、躊躇われる。かといって何もつけないと体温が外気に奪われる一方だ。堂々巡りである。

熱の逃げる感覚をじーっと観察していると、末端からどんどん冷めていくのが良くわかる。指先の冷える速さが普通じゃない。あったまったと思った次の瞬間には冷めている。冷え症かと。血行不良かと。少し遅れてつま先が熱の保持を止め、それと時を同じくするようにして太ももの表面あたりがじわじわ冷えてくる。ワイルドスピードである。

 

末端が冷えるなら末端を無くせばいいと、ひらめく。あらゆる先端を関節の中に丸め込んでみる。つま先は胡坐の中、指先は脇の下。

これがあったかい。血液の循環を感じられる場所の暖かさったらない。失血していくと寒くなるってのがよくわかる。血ってあったかいんだ。血が嫌いだから医者にならなかったんだなんて、自分の能力を血のせいにしたりしたこともあったけど、酷く申し訳なく思う。ごめん。

温まってみてふと気が付く。

このポーズじゃ何にもできない。

本を読もうにも手は脇の下だ。ページをめくれない。なんならページを保持できない。パソコンもいじれなければギターも弾けない。暖を得た代わりに能動という最重要事項を捧げてしまっている。

テレビを見ることしかできないけど、テレビそんな好きじゃない。

 

4年間間取りをほぼほぼ変えなかった部屋。窓に向かって鎮座する形で座って生活を送っている。丸まってさみーさみー言いながら、窓の外はものすごく晴れている。南向きといわれて借りた部屋は東向きだった。太陽はモーニングコールをしてくれるが、アフタヌーンホットを届けてはくれない。大家さんの可愛い嘘をちょっとうらめしく思う気持ちが一瞬よぎるも、いや、これは家から出なさいということなのだと、出掛けようと意気込む。

脇の下とひざの裏から末端を出す。もうぽかぽかだ。

しかし、末端を隠した結果新たに末端となった膝と肘が冷えていることに気が付いて、次は毛布にくるまろうと決意する午後。

ドアを開けてみればどんな脇の下よりもあったかくてどんな液晶よりも明るい日差しが射しこんだ。



ハッピーバレンタイン