これは実に根深い。老若男女関わらず、全世代を巻き込んだ内なる問題なのではないか。
ファッション感度の高い人々にはパンツで浸透しているであろう、二股に分かれており片足ずつ穴に通すことで下半身に召す、あの服。
ズボン。
特別ファッション大好きではない人間からしてパンツと呼ぶのははばかられるところがある。何しろパンツには先客がいるのだ。パンツもといズボンの下に履く下着。
パンツ。
いつからズボンはパンツになったのか。ズボンがパンツになったらパンツはなんと呼べばいいのか。長らく悩んでいる。昨今のあらゆるズボンをパンツと呼ぶ風潮からすると、往年のからかい方「パンツゥゥーまる見えぇー」が成立しなくなる。常時丸見えである。
どうやら考えてみると、ズボンをパンツと呼ぶとき、修飾語が前に付くと恥ずかしさが緩和されることは判明した。ハーフパンツ・デニムパンツ・カーゴパンツ・チノパン。このように呼称する場合は、逆にパンツじゃないとおかしくなる。デニムズボンとか酷い。ジーパンでさえ、パンツである。ジーズボでは格好がつかない。
これらの修飾語は、すべて外来語だ。なるほど、パンツはズボンを示す外来語であるからして、外来語でズボンを修飾するときはズボンはパンツになるのだな。そういえばハーフパンツの日本語訳は半ズボンだ。謎が解けた。パンツ単体では呼ぶのが恥ずかしくとも、修飾することによって恥ずかしさが緩和されるし、何より自然にズボンがパンツになる。
しかしだ。ここで問題児が登場する。
短パンである。
引っくり返っても日本語の「短」に飾られたパンツ。短パン。日本語的にパンツは下着だ。定説である。すると、ものすごくキワドいラインを攻めたパンツと解釈されてもおかしくない、短パン。だが、誰もが皆ハーフパンツと半ズボンに類するものを連想する。半そで短パンという熟語めいた組み合わせでも語られるが、考えてみたらパンの部分だけが英語だ。パンツだ。おかしい。違和感が過ぎる。
もう、ズボンがパンツに成り代わって行っているのは認めよう。パンツの支配は知らぬ間に相当広がってきている。場合によってはパンツと呼ばなければおかしいほどに。それであれば、それであれば、従来のパンツにも新たな呼称を与えなければいけないと思うのだ。ズボンがパンツになるのにパンツがパンツのままなんてパンツが気の毒だ。さぞ、時代の流れに取り残されている気になっているだろう。
おパンツと呼ぶのはどうだ。おパンツであれば、もう下着でしかなくなる。パンツが最近纏ったおしゃれオーラは剥がれ落ち、純粋無垢な、あられもないパンツが姿を現す。ただ若干これもこっぱずかしい。文字ですら恥ずかしいのだ。言葉に出すなんてもってのほかだ。
一刻も早くこの二つの呼称の線引きをはっきりしてほしい。TGCとかで宣言でもしてほしい。現状、下着のパンツをGANTZのアクセントで呼び、ズボンだったパンツをNARUTOのアクセントで呼ぶといったいっぱいいっぱいの抵抗でごまかしている。正直苦しい。何とかしたい。
都会の真ん中で「パンツ!」って叫んでも誰も下着を想像しない未来が来るだろうか。
その未来が訪れない限り、ジレンマは消えない。