職業柄、訳のわからないまま訳のわからないような敬語を塗ったくる日々を過ごしている。
最初は「お待ち申し上げております。」に違和感が絶えなかった。待つって、申し上げるのか?申し上げるってなんだ?待つ?申す?文法のゲシュタルト崩壊であった。だが、諸先輩方がなんの躊躇いもなく使うもので、そういうものかと思って使うようになった。
「お承り」というのもどうも変なようである。「承る」に「お」でダメ押しする形。「遥か前方に全速前進」くらいに力強く意味をダブらせている。ぐうの音も出ないほどに敬い、謙譲している。
たくさんの敬語と敬語もどきを覚えていく中、「差し支えなければ」を違和感なく使えるようになった。「まじで貴方の迷惑にはならないようにしたいんです。けど、迷惑にならない範囲でご協力を仰げれば…」的なニュアンスであると認識している。相手を慮りながら自分の意向を伝える術として、めっちゃ使える。「差し支えなければ伺わせていただければと存じます。」は「まじで貴方の迷惑にはならないようにしたいんです。けど、迷惑にならない範囲で会いに行きたいです。会わせて。」だ。
あまりに「差し支えなければ」が便利なものでここ最近めちゃくちゃに多用しているのだが、段々自分がすげーお節介焼きの押し売り野郎みたいに思えて来ている。
「差し支えなければ是非ご覧くださいませ。」
「差し支えなければ取って参りましょうか。」
「差し支えなければご案内いたします。」
「差し支えなければ晩御飯を頂きに上がってもよろしいですか。」
「差し支えなければ洗濯槽が壊れた洗濯機を差し上げましょうか。」
「差し支えなければ…差し支えなければ…」
「貴様」が使われすぎて見下したり小馬鹿にしている意味が付与されたように、僕の中の「差し支えなければ」も大絶賛スーパーインフレ状態だ。相手が差し支えようが差し支えまいが関係なく、「差し支えなければ」に包みさえすればそれらしく受け取ってもらえる提案ができるみたいな気になる。一歩引いて相手を気遣う上品さを持ってますアピール。たかが言葉端。されど言葉端。
カチッとしたスーツ着て、バシッと髪型キメて、メガネ外して、めっちゃいい香りの香水をそこはかとなくかけた上で、「差し支えなければこの後食事でもいかがですか?」って街行く人に声をかけたら世のナンパも相当うまく行くんじゃないかと思う。
銀座コリドー街に跋扈する皆々様、是非「差し支えなければ」を効果的に使用して頂きたい。差し支えなければで構わないので。