呼び鈴と共にやってきたのは、ここ何年か心待ちにしていた遊び道具であった。6歳、7歳の頃からはや20年。人生の大半を音楽と歩いていきた。ピアノ、ギター、応用してベース。小学生の頃に挑んだピティナのピアノコンクールで世のプレイヤー達との差を歴然と感じてからというもの、ただの趣味、ただの趣味と嘯いては音楽にまみれた生活を夢見た。
その夢が、趣味に浸かるという一つの夢が、一つの完成形を迎えたように思う。
今僕の部屋にはたくさんの楽器がある。
エレキギター、エレキベース、アコギ、サイレントギター、シンセサイザー。オーディオインターフェースとiMacがあるから、パソコンに楽器をつなげてそれらしき曲をつくることもできる。ヤマハのアンプもある。エレキとかの音はそこから出力することもできる。
そして、今日加わった新星、電子ピアノ。
考えようによっては、アコギと電子ピアノ、アンプからベースの音を出して、パソコンで適当にドラムパターンを鳴らしておけば我が家でバンド演奏ができる。夢のようである。
落ち着いて部屋を見渡してみる。
楽器がある部屋にオシャレを感じる人は少なくないのではないか。ものが少ない空間にそれとなくギターがおいてあったりする絵を浮かべてみると、洗練された印象を抱く。インテリアとしても楽器は優秀らしい。
だが今の部屋はどうだろう。キッチンは別空間にあるものの、居住スペースの六畳間に所狭しと並べられた機材楽器機材楽器。正面を向けばパソコンとモニターとシンセ。左を向けばエレキとベースとアコギ達。後ろを向けば電子ピアノ。右には大きな窓。四面から楚の歌が響いてきた時の項羽も真っ青の楽器と機材ラッシュ。窓だけが良心。
働き出して、自由なお金を少しばかりでも貰えるようになってからというもの、オシャレな部屋を作りたい気持ちはあった。一方で好きなことをやりたい、音楽を愉しむ中で、たくさんの機材を仕入れた。そうしてたどり着いた今、現在。いわゆるモテ部屋とは完全に一線を画してしまったように思う。この部屋で得をするのはどう考えても僕だけだ。普通の人が来ても苦笑いでしかない。走り過ぎたかもしれない。
さて、ピアノはどうかという話。
これを買いました。
カシオ 電子ピアノ プリヴィア スタイリッシュタイプ PX770WE ホワイトウッド調
- 出版社/メーカー: カシオ
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楽器の性能は概ね優秀だと思う。多少低音域がモニョモニョするけど、別にこれで飯食うわけじゃないし、飯食うお金を割いてまで好きで買ったわけだから文句はない。
僕が伝えたいのは、ピアノという楽器、それも電子ピアノがもたらす精神的な効果である。
楽器にはいくつか種類がある。大きく分けると、弦楽器、管楽器、打楽器、電子楽器。この辺りではなかろうか。弦を弾いて音を出すもの。管に息を吹き込んで音を出すもの。叩いて音を出すもの。電気信号を用いて音を出すもの。ギターは弦を弾くから弦楽器だし、フルートは息を吹き込むから管楽器だ。
ではピアノはどうかというと、弦楽器である。
グランドピアノを思い浮かべてみてほしい。あのエイリアンの後頭部みたいな形をした空間の中には弦が張り巡らされている。鍵盤を叩くのに呼応して、ピアノ内のハンマーが上がり、弦を叩く。そして、音が鳴る。つまりピアノの音は弦が叩かれて鳴る音なのだ。
構造としては弦楽器だが、ピアノを弾く様を思い浮かべてみると弦楽器っぽくはないだろう。どちらかといえば、打楽器だ。鍵盤を叩く。打つ。屈曲な指先で、鍵盤を殴る。
上原ひろみ ザ・トリオ・プロジェクト - 「MOVE」ライヴ・クリップ
ほーら、ぶん殴ってる。
ギターなんか、めっちゃ繊細に指を使わなければならない。左手で弦を抑え、右手で抑えた弦を弾く。ただ叩いたところで、何もならない。アコギは野太い音を出すが、エレキだったらうんともすんとも言わない。
でも、ピアノは叩けば音が鳴る。不協和音だろうが、なんだろうが、とりあえず鳴ってくれる。
これが気持ちいいんだ。本当に気持ちいい。
大人になって、何かを全力でぶん殴ったことはあるだろうか。僕は無い。子供の頃も、そう多くはない。でも、ピアノであれば、特に電子ピアノであれば、臆面もなくぶん殴れる。ぶん殴って、曲を弾ける。音はヘッドホンから脳みそを揺らす。こんなに楽しいことがあろうか。どんなに辛い日も、悲しい日も、楽しいことがあった時も、喜怒哀楽に呼応した叩き方ができる。スッキリするに違いない。曲を作るとか文章を編むとか、そうしたスッキリよりもずっと低次の、原始のスッキリである。
まだ届いて間もないが、すでに僕の日頃の鬱憤はピアノに向かい、久々のパッション炸裂プレイに右手前腕部分が悲鳴をあげている。明日あたりには取れているかもしれない。
最近の電子ピアノは省スペース化も進んでおり、狭小なりに寝床には困らなさそうだ。
一度ピアノやってたけれどご無沙汰な人とか、多少値は張るが買ってみるといいと思う。お金じゃ買えないスッキリとOh,Yeah感が味わえるに違いない。