痛いので本当にもうダメだと思っていたのだが、この痛みを書き記さなければと這いながらパソコンの前にやってきて起動している間にそこそこ痛みが収まってきたので、なんとかなるかもしれないと思い直しているところではあるが、書く。
皆さん、私服はどのくらいの頻度で洗うだろうか。小学生の頃なんかは圧倒的頻度で洗濯機に突っ込んでいた記憶があるが、大人になってからと言うもの、オシャレ着がどうのクタクタになっちゃうからどうのと、ごちゃごちゃ言いながらしばらく来てから洗う諸君が多いではないかと思う。僕もその類である。
今日ふいにセーターを着たら、いつぞやの煙草のフレーバーが若干した。僕はタバコを吸わないが、忌み嫌っているわけでもない。多少の煙草のフレーバーだったら我慢できるので普段であれば普通に着てしまうところなのだが、たまたま帰省の折に母からファブリーズをプレゼントしてもらっていたので、使ってみようと思った。ファブリーズを胸に向けてシュっ!腹に向けてシュっ!肩にシュっ!腕に脇にシュっ!順調に除菌消臭のプロセスを踏んでいた。
体の表面のスプレーが終了したとき、はたと気づいた。
背中どうしよう。
僕は体が柔らかい方なので、肩を全力で後方に捻ればファブれなくはなかった。けれども一心不乱にやらねば届かないものだから一人で寝技をかけられているようなビジュアルになってしまう。これはいくらなんでも不細工だ。
そこで考えたのが、空中スプレーであった。
空中にスプレーして、その下ですかさず背中を広げる。まるでリフティングの達人がボールを蹴り上げて首と背中の間にボールを収めるあの動作を彷彿とさせる動きで、非常に気分が良くなった。
待てよ、これはもっと応用できるのではないか。
セーターだけではない。ズボンもきっと何らかの雑菌が繁殖しているに違いない。身体全身、満遍なく除菌消臭ができたら御の字である。
再び中空にファブリーズを掲げた僕は、三回くらいシュシュシュっ!と乱射した後に全身をフル稼働させて除菌消臭霧の中でダンスをした。それは規則正いダンスではなく、乱れ狂って踊るそれであったように思う。これまで僕はブログ等を通して、言葉で日頃の鬱憤を吐き出してきた。だが霧中ダンスが僕の深層心理にある不満の扉を叩いたようで、一種のカタルシスのような効果を感じることができた。そう、除菌消臭霧中ダンスが気持ちよかったのだ。
空中にシュシュシュっ!
シュラシュラシュラ!ウォラウォラウォラ!
シュシュシュっ!
シャバダバダ!シュラバンバンバンバン!
幾度か続けた。僕は完全に我を失い、見えない力に突き動かされるバーサーカーと化していた。
不意に、指数関数の如く激しくなる動きに耐えきれなくなった体幹がぶれた。よろめいたがしかしこちとらバーサーカーである。多少の体幹の動揺には負けずに乱舞を続けようと足を振りかざした。
その時唯一僕の部屋にある机の足に強く小指を打ち付けた。
流石に今まで20年と幾年か生きてきているので、ドアの角とかに小指をぶつけた経験程度はふんだんにある。そのたびに絶対小指折れたと思って確認するも、元気に小指は接着されているものなのだが、今回の痛みは群を抜いていた。まるで2009年の世界陸上ベルリン大会におけるウサインボルトのような、他の追随をこれっぽちも許さない痛みであった。
うずくまった。バーサーカー敗れたり。小指は砕けたかと思ったのだが、とっさに確認すると無事についていた。爪もどうやら無事のようだ。しかし焼けるような言いようのない痛みが波の如く押し寄せる。うめき声が漏れていた。こんなことになるんだったら、一人寝技をかけられていればよかった。
後悔の渦の中、背中がひんやりとした。
冷や汗まで出てきたのかと思ったが、それは時間差で降ってきたファブリーズの涙雨であった。