徒然雑草

踏みつけられるほどに育つ

「邪魔」という言葉の暴力

ちょっとぉ〜邪魔なんだけどぉ〜〜

電車の中でカップルと思しき二人の男女が乳繰り合っていた。

僕はそれを背中で聞いていた。

女性の口調からは男性への悪意は全くもって感じず、むしろもっと邪魔してほしい。なんなら邪魔なんて言えないくらいにめちゃくちゃにしてほしい。完全に心の門戸をおっ広げているフェロモンがほとばしっていた。

 

何言ってんだこいつらは。公衆の面前で目の前のお互いに没頭していやがる。もっと広い視野を持たねばならんだろう。

ブツブツブツブツ心で呟いているところ不意に、字面が浮かんできた。

「邪魔」

邪な、悪魔。

約めて、邪魔。

何気なく使っている「邪魔」ではあるが、軽々しく邪魔なんて言えないくらいの言霊が文字面に含まれている。

 

邪魔とは、魔である。

邪魔以外の魔を見渡してみる。

悪魔、閻魔、魔界、魔性、魔術、魔道士、魔法、魔族。

1分の思考のもと絞り出したとっておきの「魔」達であるが、どれもこれも曰くが付いていそうな存在だ。魔法こそ昨今のハリーポッター等々魔法使いの活躍により市民権を得つつあるが、それ以外の魔なんてロクな魔じゃない。

 

邪魔とは、邪である。

邪魔以外の邪を見渡してみる。

邪推、邪神、邪気、邪鬼、邪魅、邪馬台国。

やはり1分の思考の元で絞り出した「邪」のオンパレード。どうひっくり返ってもヨコシマな意味合いの単語群である。邪馬台国だって、北九州にあったのか機内にあったのかわからない。

まして邪神。RPGのボスでもなかなか出てこないレベルの凶悪さを剥き出しにしている。

 

そんな魔と邪が繋がってできたのが、「邪魔」となる。

とてつもない恐怖。勇者が立ち向かうレベルの強敵であることには間違いない。

「世に蔓延る邪魔を倒すため、勇者ロトが立ち上がる!」

なんていうドラクエがあっても全然不思議じゃないと思う。

 

 

邪魔。

気軽に使っていい単語ではないことだけは、確かだろう。

少なくとも、フェロモンダダ漏れの猫なで声で呟くような単語ではない。「邪魔」とは、もっと強く、厳しい非難の言葉である。

 

ちょっとした非難の気持ちを表したいときは、是非とも馬鹿を使ってほしい。

あれはどんなに背伸びしたって、馬と鹿だから。